桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 やがて丘の頂上に着くと、古びた門の前で馬は止まった。

 (さっき下から見えたのは、この門ね)

 美桜はそう思いながらも言葉にはしなかった。
 辺り一帯は暗くどんよりとした雰囲気に包まれていて、気味が悪いほど静まり返っていたからだ。
 何かを言うのもはばかられる。
 
 アレンは門のギリギリまで馬を近づけると、片手で錆びた模様の上部を押した。

 ギーッときしむ音を立てながら少し開いた門の隙間に馬を差し入れるようにして、中に入っていく。

 「ここは…、競馬場?」
 「ああ、昔はね。今は全く使われていない」
 
 アレンはそう答えてから、もう少しだけ馬を進ませた。

 広さは十分で、きっと馬達は何頭も一気に競争出来たことだろう。
 観客席もあり、かつては活気付いていたことが窺える。

 けれど今は、雑草が生い茂り、風に揺れる木々もまるでお化けのようだ。

 「さ、戻ろうか」
 
 いたたまれなくなったかのようにアレンが言い、馬の向きを変えた。

 帰り道はさっきとは違い、無言のまま美桜は馬に揺られていた。

 (昔はきっと、たくさんの人達で賑わっていたんだろうな)
 
 アレンの寂しそうな顔を思い出し、美桜も少し悲しい気持ちがした。
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