桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「さてさて次は、買い物でーす!」
 
 仁がもったいぶって次の行先を告げると、絵梨と美桜は、やったー!と盛り上がった。
 
 牧場をあとにした馬車は、アレンも含めた四人を乗せて、さらに下へと下って行く。

 着いたのは、今までののどかな田舎の風景とは全く違う、大きなショッピングモールだった。

 「へえ、こんなところにこんな立派なモールがあるんだね」
 「あ、ねえ絵梨ちゃん、あそこ見て。可愛い風車があるよ」
 「ほんとだ。よく見ると壁画とかもいいね」
 
 そこまでは良かったのだが、馬車から降りたとたん雰囲気は一変する。

 「え、ちょっと、何これ?」
 「分かんない、何の騒ぎ?」
 二人は呆然とその場に立ち尽くす。

 どこから来たのだろう、あっという間にたくさんの女の子達に囲まれたのだ。
 いや、正確に言うと囲まれたのはアレンだけだ。

 「はいはいー、ちょっと通して下さいなー」
 
 仁が慣れた手つきで、アレンをガードしながら歩く。
 反対側にはメイソンがぴたりとアレンに張り付き、表情も硬く周囲に目を光らせている。

 やがて嵐のような一行は、モールの中へと消えていった。

 ポツンと残された二人は、まだ動けないでいた。

 「なんだろう、アイドルグループの追っかけみたいな?」
 「あー、確かに。でもメイソンの様子だと、国の要人警護のSPみたいだったね」
 
 とにかく、アレンはここでは有名人だということだろう。
 二人はそう結論を出して、ようやくモールの入口へと向かった。
 
 そっと中の様子をうかがいながら慎重に入る。

 キャーキャーと女の子の歓声が響く中、正面の店のドアの前で、メイソンが仁王立ちしているのが見えた。
< 74 / 238 >

この作品をシェア

pagetop