桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あのお店に入ったみたいね」
 
 そう言って近付くと、出口側のドアから仁が手招きしているのが見えた。

 「二人とも、こっちこっち」
 小声で二人を中に呼ぶと、仁は急いでドアを閉めた。

 「いやー、相変わらずだぜ、アレンの人気は」
 「いつもこうなんだ。すごいね、芸能人並みだね」
 「まあね、ウォーリング家の御曹司。若い子から見たら、王子様みたいなもんなんだろ」
 
 渦中のアレンはというと、店のスタッフとなにやら真剣に話している。

 改めて店内を見渡すと、たくさんの高級そうな洋服が並んでいた。

 アレンが指を差しながら何か告げると、スタッフは次々とハンガーごと洋服を降ろし始めた。

 「見ろよ、あれが噂のセレブ買いってやつだ」
 「あ、ここからここまでってやつ?」
 「そう。全部フォレストガーデンのブティックで使われるんだ」 

 物陰から顔を出して、仁と絵梨がささやく。
 
 やがてアレンはスタッフに軽く手を挙げると、メイソンが立っているドアへと向かった。
 
 より一層悲鳴のような歓声が上がる中、アレンはメイソンにガードされながら歩いて行く。

 どうやら次の店に行くようだ。

 「もう少ししてから追いかけようぜ。どうせ次に行く所はいつもと同じだろうから」
 
 仁の提案に従って、三人は辺りが静かになってから店を出た。

 次のお店ってどこ?と聞こうとして美桜はやめた。
 少し先に人だかりが見えたからだ。
 迷わずそこに向かう。
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