桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
【四】一月十一日
 「美桜様!お待ちしておりましたわ」
 
 馬車から降りたとたん、両手を広げたクレアにハグで熱烈な歓迎を受ける。

 「あ、ありがとう、クレア」
 そう言いつつ、美桜は体をのけ反らせる。

 (うぐ、ちょっと苦しい)

 今朝朝食を取った後、絵梨が起きるまで何をしようかと考えているところにメアリーがやって来た。
 ちょっと戸惑いながら口を開く。

 「美桜様、今日パレスにお越し頂けないかと旦那様が」
 「え?アレンのお父様が?何の用かしら」
 「さあ、そこまでは伺っていないのですが。いかがいたしましょう?」
 「それはもちろん、お伺いします。でも何の用かしらね」
 
 今回は十時にお迎えが来るとのことで、準備に時間がかけられるメアリーはほっとしたようだった。

 丁寧にメイクをしてくれ、髪は少し低めのポニーテールに、ドレスは薄いグリーンでパフスリーブの可愛らしいデザインを選んでくれた。

 メイソンが時間通りに馬車で迎えに来てくれ、美桜は一人乗り込んでパレスにやって来た。

 まだ二度目なのに、どこか懐かしいような、ほっとする気がした。

 「今日の美桜様も、また格別に素敵ですわ」

 ようやく離れたクレアが言い、そんな大げさな、と美桜は照れくさくなった。

 「さあ、中へ入りましょう」
 
 クレアは嬉々として美桜を促す。

 (なんだろう、クレアちょっと若返った?こんなに元気だったっけ?)
 
 おととい初めて会った時のクレアを思い出してそう考えながら、美桜はパレスの階段を上がる。

 前と同じ部屋に案内されると、既にテーブルの上には数々のケーキやクッキーが用意されていた。

 相変わらずのニコニコ顔で、クレアは紅茶を淹れてくれる。

 「さあどうぞ。今日はロイヤルミルクティにしてみました」
 「わあ!私、これ大好きなの。ありがとう」
 
 一口飲んで、おいしい!と言うと、クレアは嬉しそうに頷いた。

 「ケーキもどうぞ召し上がれ。あ、ランチももうすぐですから、ほどほどに、ですけど」
 「こんなにたくさん並べられたら、ほどほどに出来ないわよ」
 
 まあ、そうですわね、と他人事のようにクレアは笑った。
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