桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「んー、やっぱりここは癒されるわ」
 
 ローズガーデンを歩きながら、美桜は大きく深呼吸する。

 みずみずしく新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んで、美桜は空を見上げた。
 キラキラした光が降り注いで、まるで祝福されているかのようだ。

 前回よりもじっくりと時間をかけて、クレアの説明を聞きながら見て回る。

 「あちらの池には睡蓮、その先は南国をテーマにガジュマルやハイビスカス、もっと奥に蘭も育てていますわ」
 「本当だ、バラばかりではないのね。この南国のエリアには、プルメリアも合いそう」
 
 所々に可愛らしい陶器の置物や、タイルで描いた模様があったりして、雰囲気も味わえる。

 椰子の木の下にベンチがあり、よく見るとブランコになっていて、美桜はクレアと一緒に乗って揺らしてみた。
 二人で笑い合う。
 
 そこから少し進んだ、ガーデンの右奥に当たる所はまだ土のままで、これから何を植えようかと相談中らしい。

 「そして中央のエリアは、もちろんバラですわ」
 
 ゆるやかな坂になっている小道をバラを見ながら進み、ガーデンの真ん中に位置する小高い丘が見えてくると、美桜は人影に気付いた。
 テーブルに、なにやら食器を並べている。

 「あれ?あの人確かシェフの…、フレディじゃない?」 
 
 前回、美桜にデザートをサーブしてくれたのを思い出す。
 物静かでダンディなイメージだ。

 「ええ。今日は美桜様に、このガーデンでランチを召し上がって頂こうと思いまして」
 
 えっ?と大きな声で驚く美桜に気付き、フレディはにこやかに笑って頭を下げる。

 「美桜様、ようこそ。さあどうぞこちらへ」
 
 低めの渋い声でフレディに促され、美桜は戸惑いつつもテーブルに近づく。

 前回は、確か屋外用の白い丸テーブルと椅子だったが、今は真っ白なクロスを掛けた大きなテーブル、そしてグリーンのソファが置かれている。

 「わざわざ運んでくれたの?」
 恐縮しながら美桜が聞くと、
 「ええ、皆であれこれ相談しながら準備するのは、とても楽しかったですわ」
 クレアがそう言い、フレディと顔を見合わせて微笑む。

 美桜は胸が熱くなった。
 「ありがとう」

 ガーデンの中で頂くフレディのランチは、今まで食べたどんなランチよりもおいしかった。

 クレアとフレディの気遣いを感じ、自分はなんて幸せ者なんだろうと美桜は思った。
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