桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 今回は庭園の中に入らず、建物に沿ったまま西側へと角を曲がった。

 広々とした芝生と、奥には背の高い木々が見え、豊かな自然そのままの姿が見てとれる。

 「気持ちいいわねえ、裸足で走り回りたい気分」

 両手を広げて息をたくさん吸い込んでから、美桜は本当に走り出した。

 「え、ちょっと、美桜様!」
 クレアが慌てて追いかけてくる。

 「クレア、無理しちゃダメよ。ゆっくりね」
 振り返りながらそう言って、美桜は嬉しそうに走っていく。

 やがて湖のほとりに出た。
 「うわー、綺麗」
 
 水面は陽の光を反射して輝き、覗き込むと底まで見えそうなほど透き通っている。

 背景の森と合わせてとても絵になるその湖は、何だかどこかで見たことがあるような気がして、美桜は考え込んだ。

 「どうかしましたか?美桜様」
 ようやく追いついたクレアが、肩で息を整えながら聞く。

 「あ、うん。ちょっと不思議な感覚がして。どこかでこんなイメージの風景を見たような…」
 「ああ、ゆりえ様もそう仰っていましたわ。それでこの湖をスワンレイクと…」
 「あ!それだ!白鳥の湖」
 
 バレエの白鳥の湖を観た時、舞台上に広がった世界観がこれに似ている。

 「夜になったら月の光に照らされて、ますます綺麗でしょうね。そうだ、この芝生に観客を呼んで、月明かりのコンサートを開いたらどう?サン=サーンスの白鳥を演奏したら素敵だわあ。ピアノでベートーヴェンの月光もいいし、いっそのこと湖を背景に白鳥の湖を踊るのもいいわね」

 まあ!と言ってクレアは笑い出す。

 「美桜様って、本当に次から次へとアイデアが浮かぶのですね」
 「そう?」

 (まあ、いつもショーのことを考えているから、ある意味職業病なのかも)

 「でもやっぱりここは、もったいないほど素敵なところね」

 そう言って美桜はもう一度遠くに目をやった。
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