桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「西側の次は北側ね。何があるの?」
 
 湖を背に建物に向かいながら美桜が聞くと、特に何もないのですよ、とクレアは答えた。

 「ですから、南の庭園のバルコニーから中に戻りましょうか」
 
 と、その時、美桜の耳にかすかに何かが聞こえてきて立ち止まる。

 (なんだろう、掛け声と、手拍子?)
 自然と音のする方へと足を向ける。

 「あ、美桜様?そちらは…」
 
 クレアが呼び止めたが、美桜はもう北側に出る角を曲がっていた。

 「わあ、すごい!兵隊さん?」
 
 アスファルトの広場に、十数人ほどの若い男性が衛兵のような格好をして綺麗に整列している。

 その向かい側に一人立っているリーダーらしき人が、手を叩きながら何かを叫んだ。

 すると一斉に列が動き出し、一糸乱れぬ動きで隊列を組んだまま行進していく。

 手拍子でテンポを指示していたリーダーが、もう一度何かを叫ぶと、隊員はぴたりと足を止める。

 と同時にザッと音を立てて手にしていたライフルを下ろし、右手を前に伸ばしてから肘を曲げて敬礼をした。

 顔をやや上げた角度も、皆きっちり揃っている。

 「わー、すごいすごい!」
 思わず美桜は手を叩いていた。

 ぎょっとしたように一同がこちらを振り返る。

 「みおさま?」

 リーダーらしき人は、よく見るとメイソンだった。
 驚きで固まっている。

 「あ、ごめんなさい。どうぞ続けて」
 
 そう言われても、と言いたげな困惑は隠せない。

 「美桜様?あの、特にご覧いただくようなものでは。護衛隊の訓練ですわ」
 追いついてきたクレアが言う。

 「そうなんだ。でもとってもかっこいい。やっぱり私達とは違って本物は迫力が違うわね」

 え?と首を傾げるクレアに、ああごめんなさい、思わず…と美桜は謝る。
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