桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 「あのね、日本では学生のマーチングが盛んなの。部活の吹奏楽が根底にあると思うんだけど。全国規模のコンテストもあって、レベルもとても高いの」
 「そうなんですか。マーチング?と言うのですね」
 「そう。隊列を組んで演奏しながら、色々な技というか、隊形を変えたりして演技するの。楽器を持たないで、フラッグを使って踊るカラーガードもいてね」
 
 へえと聞き入るクレアの横に、いつの間にかメイソンも来ていた。

 「学生時代は私もマーチングをやっていたんだけど、今働いているテーマパークでは、それをもとにアレンジしたショーをやっているの。だから今見て、とても刺激を受けちゃった」
 「まあ、そうなんですね。でもお聞きしていると、美桜様の方がすごいことをなさっているようですわ。ただ行進するだけでなく隊形を変えたり、演技とか。ねえ、メイソン」
 
 クレアが隣のメイソンを見上げると、メイソンは頷きながら前のめりになって、美桜に聞いてきた。

 「みおさま。あの、その、わざというのは?」
 「あ、えっとね。たとえばトリックターンとか…」
 「トリック…?」
 「うーん、言葉では説明しにくいな。ちょっとやってもらってもいい?」
 
 そう言うと美桜は、こちらの様子をじっと見守っていた護衛隊に近づいた。

 「誰でもいいのだけど、四人協力してくれる?」
 すぐさまクレアが通訳してくれた。

 手を挙げてくれた四人に、横一列に並んでもらう。

 「いい?まずはみんなで歩くの。ワンツースリーフォーの四歩ね。その後は一人ずつ一拍で右に向きを変えてね。タイミングは、あなたがファイブ、次のあなたはセブン、その次がナイン、最後にイレブンね。ターンした後は普通に歩いて」
 
 他の人の動きに惑わされないで、自分のタイミングに集中してねと言ってから、美桜は少し離れて手拍子を始めた。

 「このテンポね。いい?Ready, go!」
 
 一斉に歩き始めた列に、美桜は大きな声でカウントする。

 「ワンツースリーフォー、ファイブ!セブン!ナイン!イレブン!エン、ストップ!」
 
 ぴたっと列が止まった後、皆一斉におおーとどよめいた。

 「まあ、美桜様、不思議ですわ。最初は横向きに歩いていたのが、気付いたらこちらに向かっていて…。いつの間に?」
 「そうなの。これがトリックターン。ポイントは、一番観客に近い側の人が最後にターンすること。そうすると、ずっと目の前を横切っていると思っていた隊列が、いきなりこちらに向かってくるような迫力を、見ている人に感じさせられるの」
 「ええ、ええ。まさにそんな感じでしたわ」
 「みおさま。あの、このわざ、ほかにも?」
 
 メイソンが興奮気味に聞いてくる。
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