最強王子とフェンス越しの溺愛キス


「……っ」

「美月ちゃん?」



不思議そうな顔をする生吹くん。

私は――いけないと知りながらも、逃げる足の力を抜いた。



「すみません……何でもないです。

お腹、空きましたねっ」



急に話を変えた私を見つめる生吹くん。

だけど、私に合わせてくれて「そうだね、食べよ」と笑った。



「今日はコレ、持ってきた」

「え、これ……椅子?」



フェンスの下と地面の、僅かな隙間から。生吹くんは小さな折り畳み椅子を、私へスライドして寄越した。

広げると、私一人が座れる。もちろん、生吹くんは自分のも持ってきていた。



「これなら、並んで食べられるかなって」

「わざわざ、持ってきて、くれたんですか……?」

「ん……そうだよ」



そう答えた生吹くんの顔は、少し照れくさそうで。

照れているのを悟られたくないのか、生吹くんは大きな音をガシャッと立てて椅子に座った。


< 15 / 447 >

この作品をシェア

pagetop