最強王子とフェンス越しの溺愛キス
春風生吹という名を、知らない族はいない。
その尋常じゃない強さから、族にとっちゃ喉から手が出る程ほしい逸材だった。
その辺の話をサクッと生吹から聞いたが、どうやら引く手数多だったらしい。
『入学式の後の部活紹介みたいでしたよ。常に勧誘だらけで』
『……』
やっぱりバケモンだ――と思ったのは、口が裂けても言えない。
ファミレスで自分の事を「相当強い」と豪語したが、生吹とやりあって勝てる強さではない。むしろ、瞬殺されそうな気がする。
それくらい強いという噂だ。
「(ま、噂は噂――か?)」
生吹は総長じゃなかったし、
美月ちゃんは魔女じゃなかった。
所詮、噂なんてそんなものだ。
噂を信じてろくな事にはならない。
あまりに生吹に畏怖の念を抱くと、総長代理としての威厳が揺らぎかねないからな。生吹の強さは、話半分くらいで聞いておくのがちょうどいい。
「(いつか抗争が起きた時。その強さとやらを、ジックリ観察するとしよう)」
そんな事を思っていた時だった。
「藤堂さんに耳に入れたい事があります」
前を見たまま歩きながら、生吹が話し始める。