最強王子とフェンス越しの溺愛キス
「マジで言ってる?なんで俺なわけ?」
「だってお前がジャンケンで負けただろ」
「だからって、なんで魔女を見ないといけねーんだよ。本当気分悪いんだけど」
「!!」
魔女――
その言葉を耳に入れた瞬間、背すじが凍る。冷水を、頭からかけられた気がした。
「い、ぶき……くん……」
「どうしたの、美月」
立っていた足が、震えてくる。
ガタガタと、小刻みに。
だけど、それを悟られたくなくて。
生吹くんに気づかれたくなくて。
私が「噂の魔女」だって生吹くんに知られたくなくて――
急いで生吹くんに背を向ける。
「椅子、ありがとう。それじゃぁっ」
「え、美月!?」
背中にかかる彼の声に、見向きもせず。
私は、この場を後にする。
どうかどうか、生吹くんの耳に、私の噂が届きませんように――
そんな事を願いながら、
途方もない事を祈りながら。
私は殻になったお弁当箱を、胸の中で必死に握り締め走ったのだった。