最強王子とフェンス越しの溺愛キス
そして、教室へ戻るまでの道のり。
二人組は、未だ恐怖に震える足に鞭を打ちながら、命からがら走っていた。
こんな事を話しながら――
「王子ってヤベー奴じゃねーか!」
「さっき思い出した!アイツ王子は王子でも、最強王子って呼ばれてんだよ……!」
「最強!?バカ強ぇのはそのせいかよ!まるで暴走族のソレじゃねーか!」
「だろ!?しかも、その辺にいる暴走族じゃねーよ!」
「あぁ!あの強さは、まるで――」
「あーあ……台無しだ」
誰もいなくなった旧ゴミ捨て場を見ながら、生吹くんは呟く。
そして、ため息を吐いた。
「はぁ。魔女の噂とか……
本当バカバカしい」
そして、目を伏せる。
まるで、今まで暴れていた凶暴な自分を納めるように、ゆっくりと。
その時、ふと、何か思った生吹くん。
口もとに薄っすら、笑みを浮かべる。
「まあ、でも。心臓を奪われたって、あながち間違いじゃないかも」
心臓は、心だもんな――
呟いて、ポケットの中にあった「何か」を取り出す。
広げると、それは――
昨日、風に飛ばされた私のお弁当袋だった。
「また、返し忘れちゃった」
困ったように笑う生吹くん。
その顔は、いつも私が見ている優しい顔の生吹くんに戻っていたのだった。