最強王子とフェンス越しの溺愛キス
「美月……見つけた」
暗いから、よく分からない。
だけど、確かに今、生吹くんと目が合って、そして笑ってくれた気がした。
ふわり、と。
張り詰めた空気に、一筋の光。
一緒にお昼を食べた時のブランケットのあの温もりが、私の凍えた心を優しく包み込んでくれたようだった。
「怪我は無い?美月」
「な、い……平気っ」
「よかった……」
ホッと安堵の息を漏らした生吹くん。
外傷のなさそうな私を見て、ボソッと一言。
「もし美月に傷の一つでもついてたら、コイツら全員殺すとこだったな」
そう冷たい声で言い放ったのを、私の耳が聞くことはなかった。
だけど、次の会話は聞こえた。まるで挑発するような声色だ。
「さぁ一輝、ついてきたからには仕事しろよ」
「え、俺は高校入ってしばらくヤンチャしてないから使えないっての」
「違う。お前に頼むのは美月の方だ。男には手を出すな。
ここにいる連中――俺一人で充分だ」
その言葉は、冷たいコンクリートに反響して、私にも、新島にもハッキリ聞こえた。
「”俺一人で充分”だと?」
新島が私から離れて、ユラリと立ち上がる。そして仲間と思しき人たちを集めた。
「お前、目腐ってんのか?ここに今、何人いると思ってんだぁ?」
「知らない。興味ない。でも、俺はやると言ったらやるよ」
「はあ?」
満月が、一瞬。雲の合間に隠れた。
辺りは瞬時に、暗くなる。