ポンコツ彼女

今だコロナ禍なある日…

別れた女房から返ってきたその一言には笑ったわ。

「ワタシ…、やっぱ、ダマされてたのね」

約1カ月半ぶりに対面した場(慰謝料持参のため!)での直談、第一声がこれだもんな。
2年目に突入したこのコロナ禍で、互いにマスクで隠された口元以外のカオを見て、このセリフだよ‼

「20代前半のウブかったワタシは、アナタの八重歯でニコッって絵柄にまやかされたのよ。若気に至りは何とも罪なものね…」

ほー、そうくるか、元カミさんはよう❕

なら、ぶつけてやるよ、こっちもよう‼

”オレも今、マスク顔面のお前まじまじでマジ悟ったわ❕あの当時最先端だった、透明ピンクのコロン付きテカりリップで離れ目をカバーしてたごまかし技で、全体不美人のお前を見切れなかったオレも若気の至りで大やけど負ったわ‼”

って…、ぶちかましてやったわ。
心の中で…。

この後、15分してオレたち元夫婦という渇ききった仲の男女は偽りの笑顔でさよならした。

ここでもショートスタンスの”金の切れ目が、縁の切れ目”をモロでなぞっていたわ。


***


なんか、このコロナ禍で互いを思いやる気持ちに持ってけないってのは、どこか罪意識が宿る。

こんな非日常を晒された危機的状況下、人にやさしくなれないなんて、自分、どこか異常なのかなって…。

とは言え、それはまたどこかで義務感への社交辞令って側面もあるわ、正直…。
ああ~、このモヤモヤは、午後の出勤までに消し去らないないと…。

”なら、柳通りに寄って行くか…”

という訳で、この日夕方5時からのSSのシフト出勤前に通い慣れたバッティングセンターへと向かった。

まあ、こんなコロナ世情でも一応は従来通りの仕事がこなせ、これまでと同等の賃金をもらえる境遇にまずは感謝してるし、気分曇らせたままのシフト入りは気が引けるんで…。

***

約10分後、東京都下某市郊外、柳通りのバッティングセンターに着いた。
この日は風もほとんど感じず、晴天だったが1,2階全のボックスが空きだった。

”うーん、ほぼ屋外のココも人はフルで引いちゃってるのか…。まあ、貸し切り状態でカキーンカキーンやれるのもこんな時ぐらいだし、むしろ気分いいか…”

早速オレは、ネーミング登録してる某地下アイドル(世間的には単なるメイド喫茶ギャル)との透明プリクラ装着バットを手に、2階2番ボックスで、時速100キロオールストレートの発球オーダーでオンした。
で…、カキーンカキーンを約6割で響かせていた。

”うん…、やっぱり気分がスカッとするな。このカキーンって音感は、実情厳しい今のオレにポジティブモードを注入してくれる”

ところが…、数分して…。
気が付くと、カキーンカキーンというポジティブ音が二重奏を奏でてる!

”うしろか…⁉”

オレはファーストオーダーがタマ枯れしたあと、後ろの1番ボックスをさりけなく振り返った。

「こんにちわー❣」

”女かよ…。多分20代後半の…”

オレの目に映った、おそらくカキーンカキーン率約9割の打者は、ショートカット・体形→スポーツ経験者・非やせ型・デカ胸・目もとパッチリ・笑顔&マスク顔は合格…、まずは…。

コロナ禍のある日、こうしてオレはコイツと初フラッシュを交わした…。
このクソな未知の感染症で覆われた、新しい非日常下…、何気なく偶然然として。

それは、今では当たり前な相互マスクでの、”口元抜き”なオトコとオンナのとりあえずそこそこな出会いではあった。





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