ポンコツ彼女
それは琴線だったのか
口元を再び披露してくれたS美は、改めて”クスッ”をしてくれた。
魅力的…?
室内ではあるが陽の流れも混ざり、大げさに言えば神々しささえ感受してる自分に”何なんだ、たかがジミ女の笑顔にコレって…”と問いかけてたし。
だが、意外とオレの中では整然と”まとめ”が浮かんでいたんだ。
それで、まずは「ありがとう、小島さん。マスク姿に戻ってください」とね。
彼女はニコ顔のままマスクを再装着した。
「今気づきましたよ、小島さんのマスクなしをこの目に収めて…。このナマ感がスマホやパソコン経由じゃ味わえないんですよね。アナタのおっしゃることはごもっともだ。オレも今日みたいな、コロナ前では何のことはないランチやティーカッションのひと時がなけりゃ、人との絆とかふれあいをゲットさえできない自分を痛感させられました」
「本橋さん…」
彼女は神妙な顔つきしてた。
「…ですから、前言取り消し。マイ人生のシュミレーションはコロナに奪われた日常の一部が取り戻せない限り、自分の人生の駒は進まないと気付かされたんだから、それ、リセットされた訳だ。オレもあなたと同じに」
「じゃあ、アナタもそうなんですね?異性と出会って、恋心が生まれ、さらにその先に進むきっかけを、こうやって密な飲食の場に依存してたの、私だけじゃないんですね?」
「そうです。オレなんかはその依存度、間違いなくアナタ以上でしょうね。しかも、現在進行形のマイ人生なんて、クソみたいなもんだ。…いや、これは失礼。食事の席なのに…」
オレは思わず慌てて頭下げちゃったよ。
***
「アハハ…。私、男の人とこういうノリ、久しぶりなんで楽しいな」
「オレも」
さりげないこの短いやり取りは、店内で流れるBGM&食器が重なる音に乗っかって耳元に届く、ランチ中のざわざわな会話の断片とコントラストを醸すかのように強いインパクトを感じた。
その間、マスク姿の二人はしっかりと目と目を向け合っていた。
まるで睨めっこしてるように。
で…、多分オレの中では琴線が引かれたのであろう。
気が付くと一気に”次”を誘っていたよ。
「…よろしければ、また二人でランチしませんか?無論、今の状況のままなら、感染対策ガチを前提で」
「はい!ぜひ…」
なんとも端的なリターンであったが、なぜか初対面なのにガチッと重みのある合意って感触だったわ。
この後、互いにケータイ番号とメルアドを教え合って、次回の約束日を決めた。
再来週の金曜日、昼前、待ち合わせは今日と同じバッティングセンターで…。
今度はラーメンでもって、それこそパンパンと音を立てるように即決してさ(笑)。
***
まもなくしてオレたちは個別でレジを済ませ、外に出た。
すると、駐車場の地面には風で運ばれた桜の花びらが輪になって躍り回るように舞い上がっていた。
「なんか、急に風が強くなってきましたね」
「ええ。でも、やっぱり桜の季節なんですね。なんだか新鮮だ」
オレは目を細め、風邪と戯れるサクラさんたちを凝視しながら、呟くようだった。
すると、彼女も…。
「私は懐かしいって感じかな」
二人は並んで風に吹かれる桜の真ん中を縦断して、S美の黒ヴィッツの前で立ち止まると、正面を向きあった。
”あっ…、サクラ…”
彼女の短い髪の毛にピンクの花びらが1枚くっついていた。
「あの…、アナタのアタマに乗っかてるサクラ、取っていいですか?」
「あ…、はい」
S美はちょっと目をぱちくりさせていたが、どうぞってことだった。
オレは背の低い彼女を上から見下ろすように、つむじ右わきのサクラちゃんをつまみ取った。
その際、オレの右指には彼女の髪がフワッて感じで触れた。
今日初めて会った女性の、髪の毛ながら、わずかながらだが、体の一部に触れた。
間違いなく、ときめいていたよ、オレ…。
魅力的…?
室内ではあるが陽の流れも混ざり、大げさに言えば神々しささえ感受してる自分に”何なんだ、たかがジミ女の笑顔にコレって…”と問いかけてたし。
だが、意外とオレの中では整然と”まとめ”が浮かんでいたんだ。
それで、まずは「ありがとう、小島さん。マスク姿に戻ってください」とね。
彼女はニコ顔のままマスクを再装着した。
「今気づきましたよ、小島さんのマスクなしをこの目に収めて…。このナマ感がスマホやパソコン経由じゃ味わえないんですよね。アナタのおっしゃることはごもっともだ。オレも今日みたいな、コロナ前では何のことはないランチやティーカッションのひと時がなけりゃ、人との絆とかふれあいをゲットさえできない自分を痛感させられました」
「本橋さん…」
彼女は神妙な顔つきしてた。
「…ですから、前言取り消し。マイ人生のシュミレーションはコロナに奪われた日常の一部が取り戻せない限り、自分の人生の駒は進まないと気付かされたんだから、それ、リセットされた訳だ。オレもあなたと同じに」
「じゃあ、アナタもそうなんですね?異性と出会って、恋心が生まれ、さらにその先に進むきっかけを、こうやって密な飲食の場に依存してたの、私だけじゃないんですね?」
「そうです。オレなんかはその依存度、間違いなくアナタ以上でしょうね。しかも、現在進行形のマイ人生なんて、クソみたいなもんだ。…いや、これは失礼。食事の席なのに…」
オレは思わず慌てて頭下げちゃったよ。
***
「アハハ…。私、男の人とこういうノリ、久しぶりなんで楽しいな」
「オレも」
さりげないこの短いやり取りは、店内で流れるBGM&食器が重なる音に乗っかって耳元に届く、ランチ中のざわざわな会話の断片とコントラストを醸すかのように強いインパクトを感じた。
その間、マスク姿の二人はしっかりと目と目を向け合っていた。
まるで睨めっこしてるように。
で…、多分オレの中では琴線が引かれたのであろう。
気が付くと一気に”次”を誘っていたよ。
「…よろしければ、また二人でランチしませんか?無論、今の状況のままなら、感染対策ガチを前提で」
「はい!ぜひ…」
なんとも端的なリターンであったが、なぜか初対面なのにガチッと重みのある合意って感触だったわ。
この後、互いにケータイ番号とメルアドを教え合って、次回の約束日を決めた。
再来週の金曜日、昼前、待ち合わせは今日と同じバッティングセンターで…。
今度はラーメンでもって、それこそパンパンと音を立てるように即決してさ(笑)。
***
まもなくしてオレたちは個別でレジを済ませ、外に出た。
すると、駐車場の地面には風で運ばれた桜の花びらが輪になって躍り回るように舞い上がっていた。
「なんか、急に風が強くなってきましたね」
「ええ。でも、やっぱり桜の季節なんですね。なんだか新鮮だ」
オレは目を細め、風邪と戯れるサクラさんたちを凝視しながら、呟くようだった。
すると、彼女も…。
「私は懐かしいって感じかな」
二人は並んで風に吹かれる桜の真ん中を縦断して、S美の黒ヴィッツの前で立ち止まると、正面を向きあった。
”あっ…、サクラ…”
彼女の短い髪の毛にピンクの花びらが1枚くっついていた。
「あの…、アナタのアタマに乗っかてるサクラ、取っていいですか?」
「あ…、はい」
S美はちょっと目をぱちくりさせていたが、どうぞってことだった。
オレは背の低い彼女を上から見下ろすように、つむじ右わきのサクラちゃんをつまみ取った。
その際、オレの右指には彼女の髪がフワッて感じで触れた。
今日初めて会った女性の、髪の毛ながら、わずかながらだが、体の一部に触れた。
間違いなく、ときめいていたよ、オレ…。