ポンコツ彼女

珠玉?の会話

マスクは二人、ほぼ同時に外したよ。

不思議な感覚だが、異性を前にして最後の一枚…、言わばパンツを脱いで双方丸出し、オールさらけ出しって感じがして、えらい気恥ずかしさがこみ上げてきたわ。

大げさな話、心臓どくどくしたし。
多分、目の前のこの女性も…。

それで…、彼女の口元は思いのほかシャープだった。
決して美人って形容はできないが、どこかほんわりとながらソソられる何かを感じたんだ。

じゃあ、彼女の方は、あきらかに年上なアクリル板越しのオトコの口元を加えたオレの表情、どう写ったであろうかと…。
それはビジュアルでの顔とココロの中身を付随させた表情って捉えで…。

ハハハ…、なんか、この女性のキャッチ具合、ざっくり把握できたかな。
どうやら向こうも、こっちが抱いてる印象と似たような掴みに収まったらしい。

そうさ…。
このコロナ禍だからこそ、お互いドンくさな隠れ味が一種のキュンって気持ちにもっていける余地がもっこりだったんだろうと思うよ。

そういうことなら、ここからの会話は重要だ。


***


「…それにしても、アナタ、空振りゼロだったですね。もしかして、ソフトボールやってたとかですか?」

「はい!高校までやってました。でもまあ、今日のはスピード、そちらよりかなりゆっくりなんで」

「いや、それにしてもいい音出してましたよ。おかげで、いつもより、気分もスキっとしました。やっぱり、この時期ですからね…。どうしてもストレスでモヤモヤがたまって…。今日は”特に”だったんで…」

彼女はどこか真剣なまなざしになって、ふんふんと頷いていた。
こういった反応もどこかドンくさっぽい匂いを感じさせる。
とは言え、そのどこかで絢やかさも発してるような…
あくまでジミ地味のベースで。

で…、その後、彼女がおもむろに口を開いたんだが…。

「あのう…。とりあえず、こういう状況下でランチってことですので、マスクも外してなら、次は自己紹介だと思うんで、まずは私から…」

ここで確信したよ。
この子…、いや失礼…、この女性は間違いなく体育会系だわ。
それも、かなり純朴な泥臭さでの。


***


だけども、彼女の自己紹介はそれほどドンくさではなかった…、とオレには思えた…。

「ワタシ…、小島S美です。来月ジャスト30歳を迎える、某食品会社に勤めるOLで…、ええと、独身です」

オレはこう受け取ったよ。
生真面目に自分を晒せる勇気を持ってる子だなと…。

はは…、大体バカ正直すぎるって。
最期に独身って…。
それ、オレらの年代なら、まず以ってはオトコに吐き出させる言質だよ。
先行告白の余白獲りね、それ(苦笑)。

***


なので、そこんとこを織り込んで、オレも晒し自己紹介で張ったわ。

「じゃあ、自分も自己紹介です。アナタとはちょうど10才年寄りの本橋K男って者です。今の仕事は、アニメセルの色塗りとセルフスタンドを掛け持ちのダブルワークです。併せて手取り40万円近いが、バツ2で諸々の事情モチってことで、手元には月10万を切ってる。そんなポンコツロードまっしぐら中ですよ、今の自分は…」

「クスッ…」

それは何とも意外なリアクションであった。
加えて、その”クスッ…”ってこぼれ笑いの音感が、何とも清流の響きと被ったよ。
なぜか…。





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