転生先は3年後に処刑を控えた乙女ゲームの悪役令嬢のようです
第二話
扉を控えめに叩く音が響き、私は身体を扉に向けた。
どうやら今回はいきなり扉を開けられる、ということは無いみたい。
「お嬢様……あの、大丈夫でしょうか? 何か大きな声を上げられたようですが……」
扉越しに先ほどのメイドが恐る恐るといった調子で、問題ないか問いかけてきた。
扉を開けないの何故だろう。
そう思った途端、ミザリーがメイドたちに行ってきた過去の記憶が一斉に頭の中をかけていった。
「わ……こりゃ、そうなるわ……」
ミザリー、つまり自分の行なってきたことに若干、いや、かなり引いた。
一言で言えば理不尽。
大丈夫かと聞いたら聞いたで、邪魔をしたと咎め、聞かなければ職務怠慢と非難した。
まさに甘やかされて育った、自分勝手でわがまま。
記憶に思いを馳らせていたら、控えめな問いかけがもう一度。
返事がなくても開けて中の様子を覗かないところを見ると、相当恐れられているみたい。
「あの……お嬢様……?」
「あ、ええ。大丈夫です。お気になさらず」
「承知致しました」
とりあえずなんでもないと伝えると、安堵したような声。
うーん。思った以上に人間関係は悪いみたいね。
今いる部屋は公爵令嬢である私の自室で、外には常に誰か側仕えがいる。
自分の身の回りの世話をする女性たちですら、いや、彼女だからこそなのかもしれないけれど、嫌われてるのはまずい気がする。
すぐには無理にでも近くの評判から改善していかないと!
とりあえず、転生前の記憶を思い出したせいで、今の自分の過去の記憶を一切無くす、ということにならずにほっとした。
いくらゲームをやり込み、全てのフラグを暗記しているとはいっても、普段の生活の事なんて知らないからね!
言葉は自動的ににそれっぽく変換されるようだけど、行動までは無理。
もし前世の私だった頃の記憶しか持ち合わせていないならば、今後に大きな支障をきたすに違いない。
「さっきはびっくりしちゃったけど、うん。やっぱり間違いないね。私の名前はミザリー・マリア・ド・ゴール。ゴール公爵家の一人娘にして、次期王を決めるために必要な政治の駒」
ミザリーの記憶を辿り紡いだ言葉に私は思わず口に手を当てる。
作中で強調されるのはヒロインの敵として、執拗に嫌がらせをしたり、その立場を笠に着て横柄な振る舞いを見せるところだ。
まさに敵役そのものであり、最後に処刑される様を見て、私も胸がすくような気持ちを得ていた。
しかし、いざ本人の立場に、本人の思考になった時、私はミザリーに対して言葉では言い表せぬ憐憫の情を抱いた。
「政治の駒」。ごく平凡な田舎暮しの両親の元に生まれ、自由気ままに生きてきた私には無縁の言葉。
意味は分かるけれど、実際に自分がそんなものになったらなんて考えたこともない。
生まれながらにして、人格ではなく、その立場しか見られずに生きた十五年間。
その倍に近い年月を生きた私にすら克服するのは難しいかもしれない。
「ミザリー、可哀想な人……」
私は思わず自分の身体を抱きしめていた。
一度も誰かに抱きしめられた記憶のない、孤独な少女を慰めるように。
もしかしたら今までのミザリーの行動は、誰かに構ってほしいだけの、子供っぽいわがままだったのかもしれない。
私には子供がいなかったけれど、そんな理由で誰かに意地悪をしたりすることがよくあるのは聞いたことがあるもの。
ミザリーの、今は私のものになった華やかな瞳から、一筋の雫が頬へと伝わる。
これがどちらの意思によるものなのか私には分からなかった。
「よしっ! 頑張らないと! ミザリーの分まで幸せにならないとねっ」
涙を拭くと、私は自分に喝を入れる。
そして必死で今後のことを考え始めた。
どうやら今回はいきなり扉を開けられる、ということは無いみたい。
「お嬢様……あの、大丈夫でしょうか? 何か大きな声を上げられたようですが……」
扉越しに先ほどのメイドが恐る恐るといった調子で、問題ないか問いかけてきた。
扉を開けないの何故だろう。
そう思った途端、ミザリーがメイドたちに行ってきた過去の記憶が一斉に頭の中をかけていった。
「わ……こりゃ、そうなるわ……」
ミザリー、つまり自分の行なってきたことに若干、いや、かなり引いた。
一言で言えば理不尽。
大丈夫かと聞いたら聞いたで、邪魔をしたと咎め、聞かなければ職務怠慢と非難した。
まさに甘やかされて育った、自分勝手でわがまま。
記憶に思いを馳らせていたら、控えめな問いかけがもう一度。
返事がなくても開けて中の様子を覗かないところを見ると、相当恐れられているみたい。
「あの……お嬢様……?」
「あ、ええ。大丈夫です。お気になさらず」
「承知致しました」
とりあえずなんでもないと伝えると、安堵したような声。
うーん。思った以上に人間関係は悪いみたいね。
今いる部屋は公爵令嬢である私の自室で、外には常に誰か側仕えがいる。
自分の身の回りの世話をする女性たちですら、いや、彼女だからこそなのかもしれないけれど、嫌われてるのはまずい気がする。
すぐには無理にでも近くの評判から改善していかないと!
とりあえず、転生前の記憶を思い出したせいで、今の自分の過去の記憶を一切無くす、ということにならずにほっとした。
いくらゲームをやり込み、全てのフラグを暗記しているとはいっても、普段の生活の事なんて知らないからね!
言葉は自動的ににそれっぽく変換されるようだけど、行動までは無理。
もし前世の私だった頃の記憶しか持ち合わせていないならば、今後に大きな支障をきたすに違いない。
「さっきはびっくりしちゃったけど、うん。やっぱり間違いないね。私の名前はミザリー・マリア・ド・ゴール。ゴール公爵家の一人娘にして、次期王を決めるために必要な政治の駒」
ミザリーの記憶を辿り紡いだ言葉に私は思わず口に手を当てる。
作中で強調されるのはヒロインの敵として、執拗に嫌がらせをしたり、その立場を笠に着て横柄な振る舞いを見せるところだ。
まさに敵役そのものであり、最後に処刑される様を見て、私も胸がすくような気持ちを得ていた。
しかし、いざ本人の立場に、本人の思考になった時、私はミザリーに対して言葉では言い表せぬ憐憫の情を抱いた。
「政治の駒」。ごく平凡な田舎暮しの両親の元に生まれ、自由気ままに生きてきた私には無縁の言葉。
意味は分かるけれど、実際に自分がそんなものになったらなんて考えたこともない。
生まれながらにして、人格ではなく、その立場しか見られずに生きた十五年間。
その倍に近い年月を生きた私にすら克服するのは難しいかもしれない。
「ミザリー、可哀想な人……」
私は思わず自分の身体を抱きしめていた。
一度も誰かに抱きしめられた記憶のない、孤独な少女を慰めるように。
もしかしたら今までのミザリーの行動は、誰かに構ってほしいだけの、子供っぽいわがままだったのかもしれない。
私には子供がいなかったけれど、そんな理由で誰かに意地悪をしたりすることがよくあるのは聞いたことがあるもの。
ミザリーの、今は私のものになった華やかな瞳から、一筋の雫が頬へと伝わる。
これがどちらの意思によるものなのか私には分からなかった。
「よしっ! 頑張らないと! ミザリーの分まで幸せにならないとねっ」
涙を拭くと、私は自分に喝を入れる。
そして必死で今後のことを考え始めた。