春の花咲く月夜には
(なんだろう・・・、なんだか、とっても特別な感じだな)
薄暗い横道で飲む、月がきれいな夜空の下のオレンジジュース。
まるで、秘密のことをしているような。
ライブが終わり、非日常を味わった帰り道、ひとりで飲んでいるからだろうか。
こっそりと家を抜け出してライブに行った少女のような、後ろめたさとわくわくとする気持ちが同居している。
ーーー帰りはなにか、おいしいものでも買って帰ろう。
そう思って、もう一度オレンジジュースを口に含んだ時に、ふと、表通り・・・信号待ちをしていた道の方へと目をやると、見覚えのあるシルエットがこちらへ向かって歩いてくる。
(・・・あれ・・・?)
徐々に近づくシルエット。
その影が自販機の灯りで照らされた時、私は「あっ」と小さく声を出す。
ーーーカフェで助けてくれた人。ギターの彼。「T's Rocketのサクヤ」だった。
「・・・見つけた」
彼は私と目が合うと、そう言ってこちらに近づいてくる。
驚く私。
目の前に来た彼は、結構息が荒かった。
「・・・、どうして」
「どうしてって。これ、スタッフさんから渡されたけど。オレ、おねーさんの名前も連絡先も知らないし。このまま帰られたら、来てくれた礼も、これの礼も言えないし」
そう言って、彼は薄桃色の封筒を目の前にひらりと掲げた。
もう一度、驚く私。
「それで・・・わざわざ?」
「・・・、まあ・・・。来てくれる気はしてたけど、ほんとに来てくれて嬉しかったんで。それに・・・、入ってる金、チケット代より多いんですけど」
「それは・・・、あの時のコーヒー代です。私と平沢さ・・・、男の人の分と、2人分払ってくれた代金です」
「ああ・・・」
「なるほど」と、彼は呟く。
コーヒー代を払ってくれていたことは、忘れていたのかもしれない。
「あれは、せめてもの詫びのつもりだったので・・・、返されるとオレが困る」
「でも、私は助けられたと思ったし、コーヒー代までいただくわけには」
「肘鉄くらわされて何言ってんですか。オレがいなければ、おねーさん、痛い思いしなかったでしょ」
薄暗い横道で飲む、月がきれいな夜空の下のオレンジジュース。
まるで、秘密のことをしているような。
ライブが終わり、非日常を味わった帰り道、ひとりで飲んでいるからだろうか。
こっそりと家を抜け出してライブに行った少女のような、後ろめたさとわくわくとする気持ちが同居している。
ーーー帰りはなにか、おいしいものでも買って帰ろう。
そう思って、もう一度オレンジジュースを口に含んだ時に、ふと、表通り・・・信号待ちをしていた道の方へと目をやると、見覚えのあるシルエットがこちらへ向かって歩いてくる。
(・・・あれ・・・?)
徐々に近づくシルエット。
その影が自販機の灯りで照らされた時、私は「あっ」と小さく声を出す。
ーーーカフェで助けてくれた人。ギターの彼。「T's Rocketのサクヤ」だった。
「・・・見つけた」
彼は私と目が合うと、そう言ってこちらに近づいてくる。
驚く私。
目の前に来た彼は、結構息が荒かった。
「・・・、どうして」
「どうしてって。これ、スタッフさんから渡されたけど。オレ、おねーさんの名前も連絡先も知らないし。このまま帰られたら、来てくれた礼も、これの礼も言えないし」
そう言って、彼は薄桃色の封筒を目の前にひらりと掲げた。
もう一度、驚く私。
「それで・・・わざわざ?」
「・・・、まあ・・・。来てくれる気はしてたけど、ほんとに来てくれて嬉しかったんで。それに・・・、入ってる金、チケット代より多いんですけど」
「それは・・・、あの時のコーヒー代です。私と平沢さ・・・、男の人の分と、2人分払ってくれた代金です」
「ああ・・・」
「なるほど」と、彼は呟く。
コーヒー代を払ってくれていたことは、忘れていたのかもしれない。
「あれは、せめてもの詫びのつもりだったので・・・、返されるとオレが困る」
「でも、私は助けられたと思ったし、コーヒー代までいただくわけには」
「肘鉄くらわされて何言ってんですか。オレがいなければ、おねーさん、痛い思いしなかったでしょ」