春の花咲く月夜には
「・・・だけど、私こそ巻き込んだお詫びというか、助けてもらったお礼をしなきゃいけなかったのに・・・」

そうなのだ。私の方こそ。

申し訳ない気持ちで伝えると、彼は「ぷはっ」と吹き出した。

「おねーさん、ほんと真面目だな」

「え・・・」

「律儀というか。頑固というか」

「・・・・・・」

自分でも自覚している性格ではある。

相手や状況により、「真面目」も「頑固」も誉め言葉だと受け取ることもあるけれど。

よく知らない、しかもこういう・・・自分とは違う世界にいる男の人から言われると、ばかにされたようにも感じられ、ちょっとむっとしてしまう。

「・・・そんなこと、ないです」

「そうですか?おねーさんみたいなタイプ、あんまりオレの周りにいないから」

「・・・・・・」

そりゃあそうだと思う・・・、と、そこは妙に納得をした。

だって、私とは別の世界に生きているのだと思うから。

「・・・まあいいや」

彼が言い、また、封筒をひらりとかざす。

「とりあえず、この金そのまま返しても、素直に受け取ってくれなそうだから。コーヒー奢ってもらいます」

「え?」

彼は笑って、封筒の中から千円札を一枚取り出すと、自販機に入れてアイスコーヒーのボタンを押した。

ガコン!という音がして、ボトル缶を取り出すと、すぐに栓を開けてゴクゴクと喉に流し込む。
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