春の花咲く月夜には
(・・・ずいぶん喉が乾いてたんだね・・・)


彼の飲みっぷりを見て、思わずそんな感想を抱く。

そういえば、ここに来た時、結構息を切らしてた。

「もしかして・・・、ライブハウスからここまで走ってきたんですか?」

「え?ああ・・・、はい。おねーさん、早くしないと電車乗っちゃうだろうと思ったし。そうしたら、多分二度と会えない気がしたし」

「・・・・・・」


(真面目で律儀と言うのなら、それは絶対あなたの方じゃ・・・)


きっと、スタッフから封筒を受け取った後、中身を確認してすぐに走って、ここまで追いかけてきてくれたんだ。

わざわざお礼を言うために。余分なお金を返したいという思いもあって。

自分のライブが終わったばかりで、疲れていると思うのに・・・。

「・・・で、どうでしたか?ライブ」

突然彼に質問されて、私は一瞬ドキリとなった。

さっきまでの思考はいったん横に置いておき、問いに答えることにする。

「・・・うん、すごく楽しかったです。私、ライブってかなり久しぶりに来たんですけれど、音響とかもやっぱりすごいし、お客さんの熱気もすごいし、すごく・・・楽しかったです」

「すごい」、ばかりを言ってしまった。

語彙力のなさになんとも悲しくなるけれど、気持ちは伝わっているようで、彼は「そっか」と言って笑った。

「けど、少し意外だな。久しぶりって、ライブとか好きなんですか?」

「はい。って言っても、今まで大きな会場しか行ったことがなかったので、ライブハウスっていうのは初めて来たんですけれど・・・。学生の頃、『×3BLACK』が大好きで、それで、コンサートにも何度も行って」

「『×3BLACK』、へえ・・・、オレも好き」

「え!」

思わず、顔がぱあっと明るくなった。

久しぶりに、同士を見つけた嬉しさだ。

「そうなんですね!・・・うん、なんとなく、聞いていて『×3BLACK』に似てる感じがありました」

「・・・そっか。まあ、そうですね・・・。意識して似せてるわけじゃないけど、みんな結構好きなんで・・・、影響受けてるとは思います」
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