春の花咲く月夜には
けれど、ここで追いかけるのもどうかと思い、呆然としたまま、離れていく2人の後ろ姿を見つめる私。

すると、残っていた黒づくめの女の子が私にそっと近づいて、申し訳なさそうに何度かぺこぺこ頭を下げた。

「あ、あの」

私は声をかけたけど、黒づくめの女の子は無言のまま最後に深く頭を下げて、だーっ!と走り去ってしまった。

彼と金髪の女の子とともに、いつのまにか姿は見えなくなっている。

「・・・・・・」


(・・・なんというか、嵐が過ぎ去っていった感じだけど・・・)


彼もだけれど、女の子2人も普段接しないタイプの人たちだった。

女の子たちに関しては、かなり若い、ということもあるのだろうと思うけど・・・。

3人とも、音楽を奏で、ステージに立つ人たちで、やはり自分とは違う世界に存在しているように感じる。


(・・・でも、なんか不思議な日だったな。楽しかったりわくわくしたり、最後はちょっと、戸惑ったり・・・)


チケット代は、結局返却されてしまったけれど。

彼は、「また待ってます」と言っていたから、このチケット代を次に回してほしいということだろう。


(連絡先は教えられなかったけど、『T's Rocket』のSNSはある気がするし・・・、調べれば、次のライブをやる日はわかるかな・・・)


そうしたら、次のライブに行ってチケット代を渡そうか。

それしか方法はなさそうだもんね・・・。


予定が狂ってしまったけれど、もう一度、彼のライブに行って曲を聞くのは嫌じゃなかった。

・・・ううん、むしろ、もう一度聞いてみたいと思ってる。

私の好きな音楽を。そして、一番好きだと思ったあの曲を。






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