春の花咲く月夜には
非日常は、いつもと違うから「非日常」になるわけで。

月曜日の今日からは、また、普通の一週間が始まっていく。

こういう普通があってこそ、非日常が特別で、より楽しく感じるのかもしれないけれど。

毎日が特別だったらいいのになって、夢のようなことを考える。



平沢さんに説明した通り、私は、IT企業で事務職として働いている。

大学卒業後に入社して、今年で勤続6年目。

お給料は事務職の中ではそこそこ良くて、人間関係も良好なので、職場環境には満足している。

転職してスキルアップした・・・という友人知人の話を聞くと、心が揺れて、悩んだり、焦ったりすることもあるけれど。今のところは、この会社で頑張っていこうと考えていた。





(よし。これで、今日の配送物はOK・・・と)


9時から仕事が始まって、あっという間に午後の3時を過ぎた頃。

私は、今日発送が必要な郵送物のチェックをし、それらを黒いトートバックに詰め込んだ。

郵便局へは、会社が入っているビルから歩いて約5分。

郵便局に行く役割は、新人から主任まで、順番に回ってくるのがうちの事務課の約束事だ。

そして今日は、私がその当番の日なのだった。

「じゃあ城井さん、私、郵便局行ってきます」

「あ、はーい。お願いね~」

隣の席で3歳年上・主任の城井さんに声をかけ、私は事務課を後にした。

一日中座っていることが多いから、郵便局に行くのは気分転換ができて結構好きだ。



うちの会社は、様々な会社が入っている商業ビルの17階に位置している。

さすがに階段はきついので、社外に出る時はいつもエレベーターを使って下まで降りる。

エレベーターはフロア内に6基もあるので、なかなか来なくてヤキモキする・・・ということはあまりないのでありがたい。

「下」の矢印ボタンを押して、エレベーターの到着を待っていると、チン!という音がして、目の前にある、一番左のドアが開いた。

中からは、スーツ姿の2人の男女が降りてきた。

そのうちの女性の方と目が合うと、お互い「あっ」と声を出す。

「心春!」

「紗也華!久しぶり」

女性は、同期でマーケティング事業部に勤務をしている与謝野紗也華(よさのさやか)だった。

同じ会社にいるけれど、部署は違うし、紗也華は新婚ということもあり、最近は飲みに行くことも少なくて、会うのは久しぶりだった。
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