春の花咲く月夜には
(・・・とはいえ、ここで頑なに『払う』って言うのも失礼な気はするけれど・・・。ここはマサさんの言う通り、素直にお礼を言っていいのかな・・・)


うーん・・・、こういう時は・・・。

どうしようか・・・と悩んだ末に、私は、賀上くんの言葉に甘えることにした。

私なりに、勇気をもった決断だ。

「・・・では・・・・・・、あの、どうもありがとう。その・・・、すごく美味しかった。ご馳走様でした」

迷いや恥ずかしさもあって、うつむきがちに、しどろもどろに伝えてしまった。

ぺこりと頭を下げてから、今度はきちんと彼を見る。

すると、目が合った彼はハッとしたような顔をして、私からすぐに目を逸らす。

「・・・いや・・・、えっと・・・、どういたしまして」

突然、といった印象で、賀上くんはやけに落ち着かない様子になっていた。

どうしたんだろう、と、急な変化に戸惑う私。


(・・・も、もしかして、やっぱり払う場面だったかな)


賀上くんの、この様子から察するに。

マサさんの言葉も社交辞令だったかもしれないと、自分の判断に不安が募る。

けれどマサさんはやけにニヤニヤとした表情で、賀上くんにウインクをした。

「うふふ。よかったわねえ、サクちゃん」

「・・・はい。えっと、じゃあ・・・、ごちそうさまでした」

賀上くんはマサさんにぶっきらぼうに挨拶をして、スタスタと歩いてそのまま出口へと向かう。

ーーーやっぱり、急に様子が変だ。

私はマサさんにお礼を伝え、慌てて賀上くんの後を追う。

「また2人で来てね~!!」という、やけに明るいマサさんの声を聞きながら。






< 58 / 227 >

この作品をシェア

pagetop