春の花咲く月夜には
思いがけない再会ー2
外に出ると、街灯や、周囲の店の灯りだけが頼りになった、静かな夜の空間だった。

ついさっきまで隣り合って話をし、賀上くんとはだいぶ親しくなった気でいたけれど、ここにきて、以前よりも距離ができたと感じてしまう。

さっき・・・マサさんのお店の会計後から、目が合うと彼はすぐに逸らすし、急に私を避け始めたように思うから。


(・・・やっぱり、甘えちゃいけないところだったかな。でも今更、『やっぱり払う』もヘンだよね・・・)


年下男子の対応って結構ムズカシイ・・・。

もやもやしつつ、どうしようかと思っていると、賀上くんは、突然、自分の髪を両手でわしゃわしゃ掻き乱し、プライベートの・・・出会った時のような髪型にした。

目が隠れ、どこを見ているのか、表情があまりよくわからなくなってしまう髪型だ。

そして、急にこちらをくるりと振り向く。

「・・・駅でいいですよね」

私はビクッと驚きつつも、「うん」と言って頷いた。

私と彼は、同じ方面・同じ電車の路線上に住んでいることが先ほど話の中で判明したので、途中まで帰り道が一緒なのである。

「じゃあ・・・、行きましょうか」

「・・・うん」

微妙な空気感のまま、私たちは駅に向かって歩き出す。

何か話した方がいいのかな、だけどもし、機嫌が悪いのだとしたら、なにも話さない方がいいかもしれない。

そんなことを考えながら、2人で無言のままで歩いていると、いつの間にか、駅前のロータリーへ出た。

夜だけど、明るい場所。

少しだけ、重い空気が軽くなったような感覚がした。

・・・その時。

「心春・・・?」

後ろから、聞き覚えのある声がして、私の心臓は止まりそうになってしまった。

ずっと聞きたいと思ってた、けれど、そんなことすら願わないように思ってた、大好きだった人の声。

ーーー忘れるはずなんてない。

だけど。まさか・・・。

私はその場に足を止め、恐る恐る、声の方を振り返る。

と、驚きのあまり、私は大きく息をのむ。

「・・・やっぱり・・・、久しぶりだな」

時が止まって、時間が遡っていく感覚がした。

・・・どうして。

頭の理解が、感情に追いつけなくなっている。
< 59 / 227 >

この作品をシェア

pagetop