春の花咲く月夜には
ーーー知るのは怖い。

だけど・・・知りたい。

ふたつの気持ちで迷いながらも、私は「はい」と答えようとした。

けれど、そう返事をしようとした瞬間に、賀上くんが、すっと私の前に進み出た。

まるで、先生と私を遮るように。自分が盾になるように。

「・・・すいません。やめてもらえますか、その連絡」

「!?」


(えっ・・・!?)


賀上くんのまさかの発言に、先生はもちろん、私もとても驚いた。

背中越しの彼の表情は、私にはまるでわからない。

「・・・。それは、どういう意味だろう」

「そのままですよ。心春さんに連絡しないでもらえますか。心春さん、オレのことさっき彼氏じゃないって言いましたけど、これから彼氏になる予定なんで」

「!?」


(・・・えっ・・・、え!?!?)


「・・・行きましょう」

そう言って、賀上くんは突然私の肩を抱き、先生にくるりと背を向けた。

そして今度は私の右手をぎゅっと握って、前方に向かって歩き出す。

「え、ちょっ・・・、賀上くんっ・・・!」

まるで状況がわからなかった。

手を引かれつつ、戸惑いながら賀上くんに向かって言うけれど、彼は無言のままで歩く速度を緩めない。

そのまま駅の改札を通り抜け、階段を急ぐように上っていって、ちょうどホームに入ってきた電車に2人で飛び乗った。

ドアが閉まり、そのままそこにもたれると、私は乱れた息を整える。


(・・・な、なにがなんだかわからないけど・・・、い、息が・・・、あそこから一気にここまでは結構キツイ・・・)


駅のロータリーから、ここまでの道のりを考える。

距離でいえばたいしたことはないけれど、最後の階段がなんとも堪えた。

「・・・・・・、すいません。勝手なことをして」

低い声で、隣にいる賀上くんがぽつりと呟いた。

私と違って、彼の息はあまり乱れていない。

「・・・う、うん。ちょっとびっくりというか混乱してて・・・。あ、あの・・・、それで、手を・・・」

とにかく手を引かれるままについていき、電車に乗ってしまったけれど。

電車に乗れた今もなお、私は、賀上くんに手を繋がれたままでいた。

別に、嫌・・・というわけじゃない。

けれど、すごく戸惑っている。
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