春の花咲く月夜には
ーーー聞き間違いだっただろうか。

今、賀上くんが「もっと一緒にいたい」って・・・。

信じられず、確認するように彼の顔を見上げると、長い前髪の隙間から、私を捕らえる視線と目が合った。

真っ直ぐで、熱を帯びているような。

急激に、私の頬は熱くなり、咄嗟に下を向いてしまった。

「・・・迷惑なら、降りるんで」

「や・・・、そうではないけど」

「じゃあ送ります。迷惑じゃないなら、あとはオレがしたいだけだし」

電車が「胡桃が丘駅」に到着し、プシューっと音を立ててドアが開いた。

下車する人たちを横目に見ながら、賀上くんはドアの横にもたれかかった。


(・・・賀上くん、やっぱり酔ってるの?それとも本気で言っている・・・?)


わからなかった。

わからないけど、自分の頬が熱いまま、どうしようもないことだけは自覚している。

・・・落ち着かない。

私が降りる駅の改札口まで送ってくれると言うけれど、これから、賀上くんにどう接していけばいいのだろうか。

・・・どうしよう。本当に。迷惑ではないんだけれど・・・。

考えながらうつむくと、電車に乗り込んできた酔っ払い気味の男性に身体を押され、わっ、と、よろけそうになったところを賀上くんに抱きとめられた。

途端、頬の熱が、さらに一気に上がってしまった。

「・・・大丈夫ですか?」

「うっ、うんっ!大丈夫!!ありがとう・・・っ」

それだけ言って、勢いよく彼から離れた。

・・・と言っても、よろける前にいた位置に、戻ったというだけなのだけど。


(・・・だめだ、妙に意識して・・・)


彼の顔は見られなかった。

かといって、どこを見ていたらいいのかわからない。

少しの酔いと、頬の熱で、頭がショートしそうになっている。

ーーー本当にこれからどうしよう。

どんな顔で、彼と話せばいいのだろうか。







< 64 / 227 >

この作品をシェア

pagetop