春の花咲く月夜には
ーーー賀上くんのことを好きかもしれない。


その感情に気づき始めた瞬間に、元村先生からメールが届いた。

新しい恋の予感に夢見心地だった感覚が、一気に現実の中に引き戻される。

複雑な気持ちを感じつつ、人差し指でメールを開く。


『元村です。

ごめん。さっきの彼に連絡するなと言われたけれど、心春は彼氏じゃないと言ってたし、だいぶ強引な感じだったので、心配もあって連絡させてもらいました。

もし、つきまとわれて困っているのであれば力になるので言ってください。


それはともかく・・・今日はとても驚いたけど、久しぶりに会えて嬉しかったよ。

元気そうで本当によかった。

それと、さっき話した通り、会ってゆっくり話がしたいんだ。

できれば、近々で都合のいい日を教えてください。』


(・・・・・・)


懐かしい文面だった。

もし、先生の名前が書いてなかったとしても、ちょっとした言葉遣いから、ああ、先生が書いたんだって、6年ぶりでもすぐわかる。


(だけどーーーー・・・)


私は、自分の感覚に戸惑っていた。

先生からメールがくれば、もっと嬉しくなるって思ってた。

それこそもちろん戸惑いはあると思ったけれど、なによりも嬉しいだろうと考えていた。

なのに今、戸惑いよりも困惑で、嬉しさよりももやもやとした感情が私の胸に沸き上がっている。


(賀上くんは、そんな人じゃないのにな・・・)


自分の中にある、一番の感情はこれだった。

私が「彼氏じゃない」と話したことで、先生はそう感じたのかもしれないけれど、それでも、「つきまとう」なんて言葉を彼に対して使われるのは嫌だった。


(・・・『会って話す』、か・・・。先生の口からちゃんと聞きたいと思っていたけれど、今はなんだか気が重い・・・)


先生と、2人で会って話すこと。

先生が、あの時のことを・・・噂ではなくて、真実のことを話してくれるらしいこと。

こんな機会は二度とないかもしれないし、聞いておくべきかもしれない。

そうしたら、私がずっと抱えたままの感情は、なにかがきっと変化して、前に進めるのかもしれないけれど。


(でもーーー・・・)


私にとって、簡単に決断できることではなかった。

聞きたい、けれどなにより怖い。

返事、なんて書けばいいだろうーーー・・・。





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