春の花咲く月夜には
元村先生が、私たちのいる居酒屋の個室に現れた。

高校を卒業してから約2年。

あの頃と、先生は全然変わっていない。

みんなは「きゃー!」と黄色い声を出す。

「元村せんせーい!!」

「えー!なんでなんで?」

「ふっふっふ。私が呼んでおいたのです。暇だったら来てーっ!てさ」

伊織は両手を腰に当て、得意そうな顔をする。

彼女はバスケ部の部長を務めていたため、顧問の元村先生と仲がよかったし、今でも親交があるようだった。

「やったー、先生、飲も飲も!」

「こっちこっち、座って!」

「え~!こっちに来なよお」

生徒に大人気だった先生は、当然私だけじゃなく、今もみんなから引っ張りだこだ。

学生時代は私もよく先生を追いかけていたけれど、今はなぜか恥ずかしく、みんなのようにははしゃげない。

女子大生の・・・少し大人になったみんなから声をかけられて、先生は、ちょっとデレデレしていた。

「いやー・・・、なんか照れるなあ。じゃあ、みんなのとこ順番に回っていくわ」

「はーい!」

それから、先生は言葉通りに順番にみんなと話していった。

私は、先生が隣に来てくれるまで、伊織とたわいもない話をしながらも、心臓が飛び出しそうなほどにドキドキしていた。

もうすぐだ・・・、次の次、よし次だ、と思って心の準備をしていると、先生が「よっ!」と声をかけてきて、伊織と私の間に座った。

「向居、久しぶりだな」

「で、ですね」

緊張気味に私が声を発すると、伊織が「ちょっと!」と先生の身体にどーん!と軽く体当たり。

「先生~、私に挨拶ないんだけどー」

「あー、仲原は今もしょっちゅう学校遊びに来るしなあ、久しぶりっていうのもないし・・・。昨日も電話で話しただろー」

「そうだけどー、今日呼んであげたの私だし!もっと感謝してほしいよね」

「あはは、そうだな、ありがとなー。こうしてみんなの成長見れるしなあ」

あの頃と変わらないやり取りだった。

微笑ましい気持ちで眺めていると、伊織がチラリと私に視線を向けて、にやにやと嬉しそうな顔をする。
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