春の花咲く月夜には
(あれからもう、5年・・・、6年、か・・・)


忘れかけていた、苦い記憶を思い出す。

先生を想う気持ちは心にずっとあったけど、あの時のーーー先生が結婚したと聞いた日の記憶は頭の隅に追いやっていた。

けれどこうして思い起こすと、胸の奥が、また痛む。


(伊織たち・・・中高時代の友達とも疎遠になってしまっていたから、本当に・・・あの日の気持ちはどこかに閉じ込めていたんだな・・・)


みんなのことは大好きで、会うのも楽しみだったけど、あの頃の思い出たちと先生は絶対切り離せない。

会えば自然と先生の近況が耳に入ることもあり、私は、みんなと会うのが次第につらくなっていた。

そして、集まりにもだんだんと顔を出さないようになっていき、今は、連絡も取りづらい気持ちになってしまった。


(先生と友達と思い出を、全部切り離して考えられたらよかったけれど・・・、私には、それはできなかったな・・・)


あの時聞いた話が本当ならば、私は、先生にひどいことをされたんだと思う。

それはわかっているけれど、どうしても信じられないし、信じたくはないと思った。

・・・だって、あれだけずっと大好きで、憧れて、尊敬していた先生が、私を・・・「元生徒」を浮気相手にするなんて。

そんなこと、簡単に認めるなんてできないし、大切にしていたすべてのものが、ガラガラと崩れてしまいそうだったから。


(いっそ、嫌いになれたら楽だったんだと思うけど・・・)


「・・・・・・」

6年ぶりに来た先生からのメールをもう一度、読み返す。

会うべきか、会わざるべきか・・・。


(会って話を聞けば誤解が解けて、楽になれそうな気がするけれど・・・、もし、そうじゃなかったら・・・)


それに、先生はもう既婚者だ。

元生徒で元彼女でもある私が先生と2人で会うことは、罪悪感も出てくるし、苦しさがないわけじゃない。

「・・・・・・」


(・・・少し、時間をもらおう)


どうするべきか。自分はどうしたいのか。

もう少しゆっくり考えて、先生に返事をしたいと思った。

だから、今は。

『少し考えさせてください。』

ーーーそう返事をすることが、私の精一杯だった。





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