stalking voice〜その声に囚われました~
終焉
「……あっ……ん……っ」
鍵を回すことなく、ドアは開いていた。
その時点でやめておけばよかったのに、誰とも分からない嬌声を聞く羽目になるなんて。
(……声、おおきい)
ドキドキ――はしない。
まるで、自分とは異種の交尾でも見た気分だ。
気まずいは気まずいけど、羞恥も興奮も皆無。
だって、ここは彼氏の部屋だし、私は合鍵渡されたばかりの彼女のはずで、何より。
――直近の彼氏、3連続でこれだから。
合鍵をそっと床に置く余裕と冷静さがある自分を褒めて、笑った。
・・・
ここまでくると、誰かに相談したり愚痴を言うのも飽きた。
それに、そんなに友達も多くない。
孤独だ。
今更言葉にしなくても分かりきったことが、私をどん底に突き落とす。
(……寂しい人生)
それも今更だし、一番寂しいのは彼氏に浮気されて号泣も激怒もできないところ。
つまり、ものすごく好きで好きで――どうしても付き合いたい! ……っていう気持ちじゃなかった。
もっと端的に言うなら、何となくいいかなって付き合ったんだ。
彼氏いない歴の更新を阻止、というか。
(彼氏はいたのに、ずっとまだ……って、そんな人他にいるのかな)
さすがに、これは誰にも言えなかった。
私の何がいけないんだろ。
魅力がないのは分かる。
でも、それならなんで付き合うだけ付き合えたんだろうか。
それとも、人を好きになれないから、それが伝わっちゃうのかな。
「なんか、もういい加減やばい気がしてさー。マッチングアプリ、登録しちゃった」
帰り道、そんな声が聞こえてきた。
「どうだった? 」
「知ってる? “Beside U”。声から好みを探せるんだよ。顔出ししなくていいし、寂しい時、話し相手がほしいだけでも結構はまりそうでそれもやばい」
「本当に寂しいな」
楽しげに笑う彼女たちはとても寂しい人間には見えないし、そんなものが必要だとは思えないほど可愛い。
出会いだって、私とは比べものにならないくらい多そう。
「でもね、本当に会う気だったら」
――好みとか、性癖とかまで詳しくマッチングできるらしいよ。
大きなひそひそ話。
やばい、を連発しながら通りすぎてく彼女たちをチラと見送りながら、頭の中を占めてるのは。
浮気されたことでも、相手の声だけ強制的に聞かされたことでもなく。
(ビサイド ユー……)
胡散臭い。
そう思いながら、名前をしっかり記憶してた。
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