stalking voice〜その声に囚われました~
コーヒーとケーキ、フルーツ。
食べきれることを最初から想定してないような、豪華なセット。
控えめなから有無を言わさぬノックで届けられたのに、泉くんが苦く笑う。
「出れる状況なの知ってるし、出れる状況でいろってことかな。しっかりしてるね」
私の予想とは違って、わりとちゃんと邪魔というか見張られているらしい。
「はい」
それもまさか、わざとなんだろうか。
高そうな食器の下に敷かれた紙には、「注意事項」なるものが書かれている。
「“今回は”……」
――あくまで、お相手との感覚を確め合う場をご提供しております――。
「……だって。実際に会って、違ったってなってませんか? その確認だけですから勘違いしないでくださいね、ってことかな。ホテルでね」
「……うーん……」
矛盾してるのかな。
ホテル=セックスに結びつけるのも短絡的なのかもしれないし、そういう考えならこのサービスには相応しくないという脱落者探しにも思える。
「すごく本気の相手探しのような気もするし、なんかゲームみたいな感じもする」
恋愛がゲームって意味じゃなくて、ゲームのプレイヤーにでもなって、それをモニター越しに眺められてるみたい。
「スリルは恋愛感情生みやすいし、本性も見えやすくなるしね。何にせよ、男にはちょっと拷問」
「泉くんにも? 」
一口サイズのケーキを受け取ると、ほんの少し気が緩んでしまった。
「君は、僕を何だと思ってるの? 口説こう口説こうってしてる子とホテルにいて、そわそわしながらコーヒー注いでる僕を見てよ。どうしていいか分からないのに気持ちだけ前のめりで、すごい恥ずかしいんですけど」
上品な生クリーム、しかも小さくて可愛いケーキに、どこも喉に詰まる要素はない。
なのに、変なとこに入ったから返事できないって主張する私こそ、前のめりで恥ずかしい。
(嘘だぁ……)
本当に気恥ずかしくて格好悪いと思うなら、そんな申告しない。――私みたいに。
「……嫌だった? 」
「えっ? 」
淹れてくれたコーヒー、ソーサーに置かれた砂糖とミルクに手をつけないのを、見守るように見つめて。
私の喉に今度は無事に通ったのを見届けてから、そんなことを言った。
「現れたのが……現れた“泉”が僕で。想像と違った……かな。声だけの付き合いの方がよかった……? 」
一瞬、きょとんとしてしまったんだと思う。
ううん、一瞬なんかじゃなかったかも。
それくらい、言ってる意味を理解できなかった。
「な……そんなわけ、ないよ。何で、そんな発想に……」
なるんだろう。
泉くんって、鏡見ないんだろうか。
だとしても、他の人は彼を見まくってると思うけど。
(……なんて、失礼だ。事情があるのかも。誰だって、いろんな経験や事情があって当たり前だよね)
「だって、急に距離を感じる。仲良くなれたって……お互い会いたいって思うくらいには近くにいれるのかなって、僕は思ってたから。違ったのかなってショックで……ううん。勝手な距離感の計り方だったね」
「そ、そうじゃなくて……!私も、会えて嬉しいよ? でも、あの……実感が……だって、確かに泉くんだけど、こんな……っ、こ、いい人が現れてそ、んな……さらっと……」
――甘いこと言われたら、現実味がないの。