stalking voice〜その声に囚われました~
ちょうど家に帰り着いたのを見計らったみたいに、Beside Uからメッセージが届いた。
『今回のイベントはいかがでしたか? あなたにとって最良のパートナーが見つかるよう、率直なご感想をお願いいたします』
場所、サービス内容――大変よかった〜大変悪かったまで、5段階で評価をつけていく。
マークしていくのは楽だ。
何も考えず、指の動くとおりでいい。
なのに、最後のひとつだけ。
『今後もイベントが開催された場合、本日のお相手とご一緒に参加されますか? 万が一、本日マナー違反があった・不快な思いをした等のトラブルがあった場合、他の利用者の安全の為にも、遠慮なくご報告ください』
赤字の「※回答必須」に一瞬指が止まった。
けど――……。
『同じ方がいいです』
答えは決まってる。
なのに、『送信完了。ご協力、ありがとうございました。』が表示されるまで、心臓がドクドクと嫌な音を立てて。
そのくせ、アンケート画面が自動的にホームに戻ると、本当に鼓動してるのか不安になるほど、突然すっと静かになった。
(この後、どうなるんだろ……)
何を怯えてるの。
あの変わった顔合わせが終わったら、後はいつもどおり。
メッセージや通話でやり取りする――そんなの、他の人と同じだ。
ただ、それが個人のツールなのか、アプリ内サービスかという違いだけ。
(泉くんも、もう回答したのかな)
私達が、同じ気持ちなら。
・・・
『……っ、あ……』
お風呂から上がった後、Beside Uが立ち上がってることに気づく。
もう何も思うことなく、彼の名前が表示されてるだけで無条件に電話に出ると、そんな驚いたような気まずそうな声が聞こえてきた。
『急にごめん。今、大丈夫だった? 』
「あ、うん。大丈夫」
そういえば、今までは事前に「◯時ごろ架けるね」って約束するか、メッセージのやり取りを何度かした後「今いい? 」って流れになることが多かった。
何も気にせず電話に出たのに、彼の焦りが伝わってくるようで、途端に心臓が煩くなる。
『……ありがとう』
「え? 」
上手く話せなくて間が空きそうになったのを、見えもしないのに髪をタオルで拭いてごまかそうとして。
『リコール……っていうか、しないでくれて』
「えっ……あ、の」
もう分かってるの?
というか、そんなフィードバックがあるんだ。
『安心して。君が何て書いたかは分からないから。ただ……次も僕を選んでくれたって。すごく嬉しかった』
「何て書いたの? 」って、固まってる私にクスクス笑って。
その声も「嘘だよ」って付け足したのも甘くて、恥ずかしさよりも心地よさの方が勝ってしまう。
『それだけで頭真っ白になっちゃって……気がついたら電話してた。本当に大丈夫? 何かしてたんじゃない? 』
「えっと……ちょうどお風呂から上がったとこだから」
『それ、ちょうどって言わないよ。ごめん、髪乾かしておいで。またしばらくしたら架け直……』
「だ、大丈夫! 」
切りたくない。
その思いが全面に出て、食いつくように言ってしまった。
『風邪引くよ。ちゃんと架けるから、ね。……長くなっちゃうと思うからさ。この後のこともあるし』
「え? 」
『だーめ。続きは髪乾かしてから。気になるなら、早く乾かしてきな? 』
(……お母さんめ)
そんな言葉が、心の中に現れたのは。
『……待ってる』
ちっとも、そんなこと思ってなくて――何てない会話にドキドキしてるからだ。