stalking voice〜その声に囚われました～

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インストールは簡単。
覚えやすい安直な名前のおかげですぐ見つかったし、インストールをタップするのもそれほど勇気はいらなかった。
でも、実際登録するとなると、話は別。


（ほんとだ。顔は載せなくていいんだ……でもな～）


失恋した当夜だって言うのに、随分元気だな。
ごはんもしっかり食べて、お風呂も入って、こんなことしてる。

どれだけ、愛情がなかったんだろ……って、前回も思った。
次に付き合えたら、その時はものすごくムカついて悲しくて、喚き散らすような恋にしたい――って、浮気されたいわけでは、けしてないけど。


（それで、マッチングアプリなんてどうなの）


なんて思う私は、古いんだと思う。
周りにも、それで上手くいった話や、結婚した人がいることも知ってる。
だけど、やっぱり半信半疑で、少し怖い。


（声だけなんだから。別に、会わなくていいし。嫌だったら、途中で切って退会すればいいいの！ ）


うじうじするのは嫌だった。
ここまできて、何もしないのも嫌だ。
――こんな日に、一人で興味もない情報をスマホやテレビから頭に流し込むのも。

名前、年齢、地域、興味のあること。
それから、声の好み。
自分の声を録音すると、声質なんかは勝手に判断して振り分けられ、相手を探している人がその声のタイプを見て判断する。
「ソフト」「穏やか」なんて設定された、自分の声が気恥ずかしい。
ただ緊張して、小声になっただけだ。


（でもそこ、重要だなぁ……）


なんせ、そこが類似アプリと違うところで、このBeside U とやらの売りなんだろうし。
赤の他人の、彼氏の浮気相手の悩ましげな声なんて聞いてしまった夜には、優しい声を聞いていたい。


（分かってはいるよ）


声だけじゃ、何も分からない。
声が優しいからって、性格が優しいとは限らないし、何の関連性もない。
自分だって、声に自信があるわけじゃない。
寧ろ、ボソボソして聞き取りにくいって言われることの方が多かったし、何ならすぐ噛む。


でも――……。


「…………」


好みのボックスにチェック。
自分の声に近いものにも、チェック。
それから、「好みのタイプ、話したいこと、趣味などをご自由にお書きください。」

――癒されたいです。


送信して、パッとアプリを閉じた。
何を一人で照れてるんだろう。
こんなの、大したことない。
今時、普通。
何より、私みたいな女には必要なんだ。
顔が見えないってことは、考えようによっては向いてるかもしれない。
内気でもないのに、コミュ障で。
私なんか眼中にない誰かの目が気になって、誰とも心から打ち解けることができない。
そんな私にぴったりの――……。


「あ……」


通知。

――メッセージが届きました。