stalking voice〜その声に囚われました~



そんな申告されて、何て答えたらいいのか分からない。


「……軽蔑した? 」


でもそれは、呆気に取られるとか怖いとか、そういうことじゃなくて。


「……ううん」


胸が鳴ってるせい。
頬が熱いせい。


『……だからさ。さっきの、あんまり信じないで。君の承諾なしにしないよって。それは本当だけど、すごい詐欺だから』


つまり、私は――……。


『でも、会いたい。それはどこもごまかしてない、本心』


――流されてもいいって、ううん、流されたいって思ってるの?


「また、あのホテルで、その」

『うん。ただ、次は、もうちょっと豪華な棟。今日みたいに、他の人と鉢合わせることはないと思う』


あの部屋だって、私には一生縁がなさそうな高級感だったけど。
非現実的なほど高価で、綺麗に整っていて、誰の目も届かない閉鎖された空間。
そんなところで相手を探している大人が二人揃えば、それはもちろん――……。


「あの……本当に私でいいの? 泉くんなら他にいくらでもいそうなのに、私でいいなんて、その」


よっぽど何か事情があるんじゃないかって、勘繰ってしまう。


『まず、その“で”がおかしいって言ったよね。それと、喜んでいいのかへこんだ方がいいのか……へこむな。言っておくけど、僕にそんな変な趣味はない……と思う。少なくとも、君が心配してるような……女の子いたぶったりとか。言いたいの、そういうことでしょう? ないよ』


気を悪くしたよね。
少し苛立ったような声がして、ピクッと方が竦んだ。


『あ、違うよ。怒ってなんかないから。君が不安になるの当たり前だし。ただでさえ、まだ始まってもないのに僕はその気だって言った後だもんね。そうじゃなくて、焦ってるんだ。他に連絡手段がないと、どうもね』


今日だって、そうだったよね。
同じ理由で迷って、結局会いたくて会った。
またうだうだしてしまうのは、実際に会った彼がすごく――……。


「そっか。そこは喜んでもいいのかな。顔だけじゃなくて、多少なりとも僕は君の好みだって」


改めて本人に自分の気持ちを代弁されてしまうと、気まずいと同時に思い知らされる。

泉くんは、私の好みそのもの。
だから、そんな人が私を口説いて、しかもそんなことしたいって言われてる現実を疑ってしまうんだ。


『……参った。そんなこと言われたら、尚更機会を逃せないよ。少し、考えてみて? また、押してみるから』

「も、もう……」


一度でこうなら、何度も押されたらどうなるか分からない――ううん。


(分かりきってる)


流されたい人間が、そう長く持ちこたえられるはずないって。


『招待状、届くと思うから。ちゃんと読むんだよ』


押しきりたいのか、警告したいのか。
きっと、もともとの優しさなんだろう。

変な空気になりたくなくて、いいこっぽく返事をした。
まるで今も監視されてたみたいに、電話を切ると運営からメッセージが届いてる。


「えっ……、あっ」


何これ。
そう思った次には思い出してた。
Beside Uを知ったきっかけ、あの女の子たちの会話。


『性癖とかまで、詳しくマッチングできるらしいよ』




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