stalking voice〜その声に囚われました~
監禁ごっこ
嗜好、タブー。
相手に求めるもの――……。
『より正確なマッチング、将来的なお付き合いの為に、できるだけお選びくたさい。』
『※個人情報は厳守いたします。また、お相手の嗜好についても、利用者間で適切なご対応をお願いたします。』
申し訳程度に小さく書かれた注意書きを、恨めしく睨むだけ。
結局、昨日は返事できなかった。
何度説明文を読んでも、ずらっと並んだチェック項目を見ても、照れてしまって選ぶことができない。
(“”優しい“、甘々”……)
それは、もう十分。
そんな言葉にも、一人で照れてしまうし。
(か……“監禁”、え、えす……M)
そういう選択肢が目に入るだけで、それ以上踏み込んじゃいけない世界のドアの前に立ってる気がして。
(……ドキドキしてるなんて、馬鹿だ)
嗜好や傾向も何も、したことないから分からない。
大体、マッチングアプリ自体初めてだし、ましてやこのBeside Uのサービスが未知の
怪しい世界だ。
泉くんにも、このアンケートは届いてるはず。
既に招待されていたとしても、もし互いの好みがかけ離れていたら、やっぱり再マッチングになるんだろうか。
(……それなら……)
参加する意味、ない。
どんなにおしゃれで、ムード満点で、現れたのがどんなに素敵な人だったとしても、
ううん、また一から話して、もしも気が合ったとしても。
きっと、今以上に悩んだりしない――勇気がほしいなんて、この私が絶対思うわけない。
(泉くんは……)
何を求めてるんだろう。
どんなことを望んでるのかな。
もちろん、私にだってできないこともしたくないこともあるけど。
(そっか、タブー……)
そっちを選ぼう。それに。
『その他、ご希望がおありでしたら、ご自由にお書きください。』
――もし、アンケートの結果、他の方になりそうなら、辞退します。
そんなこと書かれて、運営の人も誰より泉くんが対応できるのか分からない。
いくらそういうサービスだって言ったって、こうして質問されて考えて、出た結論を文字として自分の目で確認すると、ベッドに寝転がった状態すらしんどい。
(……それって、つまり私)
――彼と以外、したくありません。
(そんなこと書いてるんだ。それどころか)
とどのつまり、提示されたプレイ傾向とかを突き返して、質問全部無視して――彼としたいですって言ってるの。
(恥ずかしすぎる……でも)
腹を括るしかないのかも。
訳分からないけど、めちゃくちゃだけど。
でも、もしあの日、浮気現場に遭遇することがなければ、いつかは一応彼女だった私もそうなっていたかもしれないんだから。
それだって、十分めちゃくちゃで恥ずかしくて、悲しくて辛い。
それならもう、こんな恥なんて――……。
(……送信……!! )
それが目的なんだから。
彼氏、欲しかったんでしょ。
それが、あんなに好みどころじゃない人と出会えたんだ。
(……やった……)
この後どうなるのか、まったく未知数。
怖くないと言えば、嘘になる。
不安と期待と恐怖、いろんな感情がごちゃまぜになってるのに、興奮という点では一致して、沈み込む身体がおかしな達成感に包まれていた。
(馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、自分の気持ちで自分で選択したの初めてかも)
自分の人生だ。
たとえ、何があろうと。
そんなやりきった感に包まれて、何か重要なものを選んでいなかったかもしれない。