stalking voice〜その声に囚われました~
急いでたキスが、一瞬離れ――ちゅっと軽く落とした後、ゆっくりと再開して、嬉しいのに泣きそうになる。
(今、絶対気づいた……)
付き合ったことはあるのに、経験なんてほぼ何もないって。
どうしよう。
どうしようもないけど。
この歳でそうなんて、引かれてないかな。
面倒かもしれないし、初めてのくせして、こんなところに乗り込めるなんて、軽蔑されたりしないかな。
「……あゆなちゃん」
ああ、ほら。
さっきはあんなに近かったのに、こんなふうに二人の間に隙間が――……。
「……っ、や、だ……」
「…………」
無言。
そりゃ、そうだよね。
そんなこと言われても困る。困らせてる。でも。
「……やめないで……」
触れてみると、上質なことがすぐに分かるスーツ。
こんなふうに握りしめたら、くしゃくしゃになってしまう。
なのに、手離せない。
「あゆなちゃん」
嫌だって。
永遠に来ないかもしれない「また今度」を、言われる前から拒んでる。
「……や……」
こんなこと、本当に私の口から出てるの。
似合わないって恥ずかしいのに、それ以外どうしたらいいのか分からない。
「あゆな」
「っ、んっ……」
聞く耳は持たない、目を合わせようともしない私に、それはすごく有効だった。
呼び捨ても、やや強引に顎を上げて口づけるのも。
「やめてあげるなんて言ってないのに。あーあ。もう、本気でやめない気になっちゃった」
失敗したね、って意地悪に笑われて、羞恥よりもほっとしてる。
「可愛いこと言ったこと、後悔して」
失敗でも、悔やむことでもない。
――希望どおりだ。
・・・
ジャケット、シャツ、ネクタイ。
緩んでいくたび、そのどれも卑猥に見えてしまう。
「ごめんね。こんな場所で、やめる気全然なくて」
「初めてが」を言わないでくれる優しさ。
ホテルだって頭が覚えているからか、ベッドの上で頭を撫でられるのすら、官能的だ。
「ううん……あの、ごめ」
また、キスで謝罪を遮られる。
何を謝りたいのか、伝わったんだと思う。
「謝らないの。何も謝るとこないのに謝られたら、悪さ、しにくくなって困る」
こんな大きな、頑丈なのに程よい硬さのベッドも、ギシ……って軋んだ音がするんだ。
大人ひとり、既にマットレスに乗っていて、もう一人の体重が加われば。
「……いや、そうでもないのかな」
「え……? 」
いつから、想像してたんだろう。
子供の頃から?
大人になっても夢見て、そんなの現実にはあり得ないって否定してた?
「その顔見て、止まれる男いないよ。……僕は、絶対無理」
絡め取られた指が、優しく耳の側でベッドに沈んだ。
起き上がっていたら、恋人繋ぎ。
でも、ベッドに背中がついて、上に彼がいたらそれは。
――甘く、緩い、拘束。