stalking voice〜その声に囚われました~
そういえば、この服脱ぎにくいな。
恥ずかしさを紛らわせる為かそんなことを思ったのに、長い指は器用だ。
キスの合間、片手は繋いだまま、もう片方でそっと背中を浮かせてチャックを下ろしてく。
「それにしても、すごいタイミングで電話あったな。おかげで、まだ少し迷ってたのが、どっか行った」
「まよ……っ、ん……? 」
顔上げないで、ずっとキスしててほしい。
一枚一枚剥がされていくのが、優しくて甘くて、嬉しさを感じる余裕がある分、恥ずかしさも倍増する。
「好きで、大切にしたい。なのに、付き合ったその場で抱いていいのかな、って。抵抗は多少あったよ。……あ、信じてないな」
「だ、だって」
「もう、君は」耳元で囁いたのと、そのまま甘噛みされたの、どっちがお仕置きなんだろう。
「他の男と話してるの見たら、やっぱりこのまま自分のものにしたくなった。おまけに君は、僕を誘ってばかりだし」
「さ、誘っ……」
「……ってる、よね」
誘うどころか懇願した私が、否定できる要素はひとつもない。
「いいよ。もっと誘って。理性とか世間体とか、僕がそんなの考えられなくなるくらい」
処女相手に無茶を言う。
余程顔に出てたのか、可笑しそうに屈託なく笑う。
その笑顔は爽やかで、少し幼くもあるのに首筋をくすぐる息に身体が反応してしまった。
「何もしなくていいんだけど。君は自覚ないけど、こうしてるだけで、じゅうぶんエロいから」
嘘だ。嘘なのは確実。
問題なのは、それが優しい嘘なのかものすごく意地悪な嘘なのかってこと。
「……泉くんも、そんな冗談言うんだ」
少し面食らったような顔から背けると、露になった首筋に唇が押し当てられる。
「まず、こんな局面で冗談言えるほど、馬鹿でも余裕のある男でもないし。……ね、あゆなちゃん」
さっきは確信がもてなかったけど、これは間違いなくお仕置きだ。
ストラップはだらしなく肩から腕へと落ちたのに、締めつけは緩めてもらえないまま下から上へとたくし上げられ、ブラから窮屈にはみ出た胸。
主張して、アピールして――私から誘ってるんだと、強制的に自覚させられる。
「押し倒されて組み敷かれて。それでもまだ、僕をそんなふうに思うの。知らない? 狼さんはね、最初は狼の顔、してなかったでしょう」
ぴくん。
震えたのはいつ?
頬に触れられた時か、反対の手がすべて脱がされるよりもいやらしく、まるで縛られたみたいにワイヤーが食い込んだ胸を弾くように撫でられた時か。
「彼氏としては嬉しいよ。安心して、信用してもらえて。もともと、癒やしてあげたいなって思って話してたから。でもね」
楽しそう――……。
真上から見下されてるはずなのに、なぜかチラリと逸れた黒目を追って気づく。
「男っていうか、雄としてはね。もう少しくらい、危機感もってほしいな。……君は、食べられる寸前なんだよ。分かってる? 」
頬に触れた理由。
敏感な場所に触れられて、反応するのがそこだけじゃなくて。
「もうちょっとくらい、怯えて。そうしたら、もっと優しくできるから」
全然関係ない、離れたところの神経すら過敏に震えてるのを感じて、楽しむ為だ。