stalking voice〜その声に囚われました~
怖いよ。
だって、知識としてはあっても、実際どんなものかよく知らない。
他の人は気持ちよくても、私がどうなのかは知りようもなかった。
「やっと実感してきた? ……いいね、その顔。可愛い……」
(泉くんが怖いんじゃないもん)
甘い言葉で、少し馬鹿にされた気がしてムッとしてしまう。
「拗ねてる。そういうのもね、迂闊すぎて可愛いんだけど」
髪を掻き上げられ、無防備な首筋が捕まる。
怖いのは、怯えてるのは自分に対してだ。
こうして波が押し寄せたら、恥ずかしがることもできないくらいのまれてしまいそう。
「……ありがとう。今夜来てくれて、僕に流されてくれて」
なのに、急にそんなふうに優しくなられたら。
「……ううん。私、流されてないよ」
自分から強請っておいて、泉くんだけの責任にはできない。
私が、私の意思で、したくてしてる。
そう素直に認めてしまう。
「やっぱり、その男に感謝しちゃうかな」
その言葉を待ってたみたいに、くるんと背中が半回転して、驚いて口を「あ」の形で開けた時にはもうホックが外れてる。
「君と知り合えたし、会えたし。……手、出さないでくれたんだもんね」
「っ……」
開いたままだった唇の僅かな隙間を縫いながら、狭かった分は広げられて、舌が侵入する。
どこにも墜ちない。
これ以上、ベッドに沈みようもない。
なのに、なぜか怖くて、思わず彼の腕に指が掛かる。
「ま、これで君に酷いことしてたら、許さないけど」
「っ、ん、何もなかった……」
「うん。それも辛かったよね。ごめん、喜んだりして」
舌も唇も喉も、彼についていけてない。
思考すら置いてきぼりで、ただ彼に掴まる手だけ、現実らしく力が入る。
「僕はそんなことしないから。何もしなくて、不安にさせたりもしない。しすぎて疲れた……は、あるかもしれないから、言ってくれたら我慢できる……と思う。頑張る」
「…………心配してないよ? 」
軽い笑い声は、今度こそ冗談だから?
それとも、上手く呼吸できなくてくらくらしてる私が、おかしかったのかも。
「なら、いいけど。最後のはいいのかな。……って、もうあんまり聞こえてない? 本当可愛い」
まだ大して何もしてないのに――きっと、そう笑った気がする。
「大して」されてるって、心の中で文句言ったのは覚えてる。
こんなになるんだって、羞恥よりも愕然とするほど変化した身体に触れられ、口づけられ――後はもう、何をどう「可愛い」と甘やかされてからかわれても、一切拗ねることも、抵抗なんて微塵もできなかった。