stalking voice〜その声に囚われました~
恐る恐る、メールのアイコンに触れる。
冗談じゃなく、本気で指が震えた。
たったこれだけでこんなになって、誰かと出会うなんてできるのかな。
『こんばんは。よかったら、お話ししませんんか』
たった、それだけ。
でも、気持ちは分かる。
私がもしもメッセージを送る勇気があったとしても、そうとしか言えないと思う。
(泉、さん)
男性、私より二つ上。
私が入力した好みのタイプ――好みの声と識別され、彼の希望と私の声質で出てきた相性は「97%match♡」みたいだけど。
(……ほんとー?? )
そこで疑うと、AIの方が可哀想かもしれない。
結局のところ、相性なんて声だけどころか、話したってすぐには分からないんだから。
なのに、ドキドキする。
(大丈夫。変な人だったら、すぐ切る。むこうだって、嫌だったらそうするはず)
せっかく、声を掛けてくれたんだから。
こんなこともうないかもしれないし、私の勇気だって今を逃したら金輪際出ないかも。
『はい。よろしくお願いします』
送るので精一杯で、ちっとも可愛くも愛想もない。
大体、返事がかなり遅れた。
利用者なんて、星の数ほど。
そうでないと、逆に不安だし。
そうこうしてる間に、他の人にいったって不思議じゃないよね――……。
「……っ、あ……」
(か、架かってきた……! )
残念なようで、大いにほっとしてたところで、通知ランプが点滅し始めた。
スマホの画面いっぱいに、電話が鳴っているイラストが表示されてる。
その下には、会ったことも話したこともない男性の名前――泉、の文字。
「……っ、は、はい……!! 」
どもった。
すっごく変な声で。
スマホを耳に当て、相手よりも自分のおかしな声にかあっと熱が上がる。
『……あ。今、大丈夫……でした? 』
(……ほんとだ。本当に男の人だ……)
それだけで、心臓がドクドクとうるさく音を立てる。
別に、初めて男性と会話したのでもないのに、まるで初恋くらいの心音。
こんな状況、初体験には違いないから、脳が錯覚するのかな。
「だ、大丈夫です。すみません……緊張して、なかなか取れなくて」
しまった。
聞かれてもないことを、正直に言っちゃった。
「そっか、よかった」
「え? 」
どうしよう。
頭が忙しくて、私が自覚しているよりも待たせたのかも。
「僕も緊張してるから。一緒だね」
初対面にすら程遠い、ただ声を聞いただけの人。
それで一緒だなんて共感、そんな簡単に生まれるわけない。なのに。
「……ありがとうございます……」
(いっしょ……)
今、ほろりと泣いてしまいそうなくらい、ほっとしてる。