stalking voice〜その声に囚われました~







ルームサービスで、何度食事が届けられたか。
そんな単純な計算も、もうとっくにできなくなってた。


「大丈夫? 」

「うん」


そう答えてしまう時点で、ほら、どうかしてる。
頭を撫でられるのはもはや休憩に等しいのに、ゆっくり指が髪を通るだけでゾクリとするとか。


「ごめん。さすがにちょっと、しすぎ……だね」


部屋にはベッドしかないから、仕方ないといえば仕方ない。
付き合ったばかり、想いが通じてお互い興奮状態だったのなら。
おまけにというか、そもそも、その為に来たんだから。
それにその、最後まで求められたのは「しすぎ」と表現するには少し足りないかもしれなくて、ずるずると延々、ひたすらに甘やかされていた。
逆に、泉くんは辛かったんじゃないのかな――不確かな知識でそんなことを思ったけど、初めての私を気遣ってくれたのだけは事実だ。
それに恐らく、普通の感覚や相手が別だったなら、「しすぎ」にすぐさま分類してただろうことも。


「あゆなちゃん」


想定外だったのは、困ったことに――困るべきことに、ここから出れば解決するという分かりきった一択を、選ぶ気がさらさらないことだった。
力が入らないのをいいことに、返事もせず頬をぺたんと彼の胸に寄せる私を見て、さすがにヤバいと思ったらしい。


「え……? 」


側に落ちてたシャツごと肩から包まれ、少し正気に戻る。


「このままだと、壊しちゃうな。危ない危ない」


子供みたいな、額へのキスでゆっくり目も開いてきた。


「よかった。あのまま戻らなかったら、僕の方がヤバかった」


素肌で白いシャツを着る意味、あるんだろうか。
脱いでしばらく経ったシャツからは、とっくに香りもぬくもりも消えてるはずなのに、そのどちらも感じ取ってしまう。


「エロすぎて、抑えられなくなりそうだった。……って、この格好もそそるしかないけど」


透けるも何も、ほぼ丸見えだ。
身体の線も、肌の色も、かたちも。


「……お、抑えてるの? 」

「抑えてるよ。じゃなきゃ、君の意識が朦朧としてる隙にもっとおかしくなってくれたらいいのにって、続きしてる。……バスローブ、着よっか」


離れる前に、軽くキスしてくれるのも。
すぐに、戻ってきてくれるのも。
嬉しくてくすぐったくて、どこかが疼く。


「はい」


立ったついでに、水をコップに注いでくれた。
バスローブを羽織らせて、「(今のところ)もうしません」って、前の紐をわざとらしく結んで。


「……ね、あゆなちゃん」

「……っ、ん……?」


まだ水すら上手く飲め込めない。
噎せてしまったのを申し訳なさそうに、なぜか愛しそうに背中を擦ってくれた。


「もう少し、ゆっくりしてたい。だめ……? 」


――僕といて。明日も、ずっと。


きゅっと握ってしまった空のコップを受け取って、サイドテーブルに置いて。
まるで、拒否なんてさせないと言うように、唇に指を這わせた。
お口にチャック――のはずが、喉を通りきれなかった水が僅かに唇から溢れそうになって、絶対わざとだって言いたくなるような音を立て、彼の喉へと吸い込まれていく。


「だめって言われたら……」


――やっぱり、壊しちゃうかも。


今度は二択。
意地を張って断って、さっきみたいにぐずぐずに可愛がられて、人間としての理性や羞恥心、思考能力もすべて奪われてしまうか。
それとも、素直に私も一緒にいたいんだって認めて、会社に欠勤の連絡を入れ、たぶん恋人らしい情事を重ねるか。


――ねぇ、どうしたい?



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