stalking voice〜その声に囚われました~
・・・
「あー、よかったよかった。泉が彼女連れてきた」
「何度目だよ」
ここはリビングですか?
迎賓館ですか??
そんな混乱をしていた頭も、少し落ち着いてきた。
「心配で、何年眠れない夜を過ごしたと思ってるんだ。しかも、こんないいお嬢さん」
「彼女はそうだけど、夜はぐーぐー寝てるだろ」
泉くんの言うとおり、ご両親は気さくな方だ。
それにとにかく、受け入れられたことにほっとした。
「そんなことない。やっぱり、今後のことを思うとお前には結婚してほしいし」
「そうよ。いろんな意見を否定するつもりはないんだけど、うちは跡継ぎが必要だもの」
(……あ……)
それで、かも。
いろんなライフスタイルを否定する気持ちはなくても、ご両親としては将来を考えると我が子に独身でいられると心配だったんだろうな。
余程酷くなければ、歓迎されたのかもしれない。
「……勘違いしないで。彼女は、孫や跡継ぎをつくる道具じゃないんだ。彼女にそんなプレッシャーかけるなら、どっかで二人きりで結婚する」
「い、泉く……」
冷えた声に喜んだり、自分勝手にキュンとしてる場合じゃない。
そこまで言われてないと思うし、会社のことを考えるとふと口を突いてしまったんだろう。
「分かってるわよ。私も正直苦労したから、あゆなちゃんには同じ思いさせたくないの。ただ、あんたが彼女を連れてきて安心したって話」
「そうだぞ。お前こそ、こんなところでプロポーズなんて、ムードもない」
「させたの誰。……ごめん。息が詰まるよね。庭でも見る? 」
深い溜息。
おろおろしてる私の頭を撫でると、私の手を取って立ち上がった。
(珍しく怒ってる……じゃない。怒って、くれてる)
「あ、あの。泉くんは、私の為に、その」
「君が謝ることないよ」
あの、その、しか言えなくて、ぺこりと頭を下げる私の手を引っ張った。
「おい。乱暴するんじゃない」
お父さんはそう言ってくれたけど、急に引かれて傾いただけで、乱暴なんかじゃなかった。
私がとろいのもお見通しで、すぐに腰を支えてくれたし。
「おいで」
その声は、やっぱり優しかった。
・・・
「本当にごめん。せっかく来てくれたのに」
「ううん。あの、本当にそんなこと……」
ここも庭というより、庭園だ。
緑と綺麗な花に囲まれ、王子様みたいな人に抱きしめられてる。
「あんなの、気にすることないから。でも……」
何もかもが、非現実的すぎる。
「……その。……子供欲しくないとか、思ったりする……? 」
こんな会話も。
「そ、そんなことない。い、いつかは……って、憧れはある、けど。でも、あの……」
「もちろん、授かりものだよ。できなかったら、それはそれで。それこそ、君が気に病むことじゃない。僕に問題があるのかもしれないし。そうでしょう? 」
期待に応えられないかもしれない。
それを言わせまいと、唇を塞がれた。
「……僕でいい? “いつか”の憧れが、僕でも」
「え、あ……」
初めて、好きになった人だよ。
嫌なわけない。
「……ごめんね。無理やり頷かせて。その前に了承は得たいけど、きっと……」
――断らせる気、全然なくて聞いてる。