stalking voice〜その声に囚われました~
これ、部屋?
何度も持った疑問が、彼の部屋――いや、これはもう離れだ――移動した先でも浮かんだ。
「心配しないで。同居とか、絶対ないから」
服を脱がしながら言うのは卑怯だ。
別にまだそこまで考えてなかったのに、「やっぱり、その方がいいな」になってしまう。
「僕が嫌なんだよ。聞こえないはずだとしても、気が散って存分に君を攻められない」
(……攻めてる自覚はあるんだ)
下着が落ちるのに、どうしてこんなに手間取るの。
慣れてるくせに、そこで時間を取られると腹が立つのに、羞恥には敵わない。
「不満? じゃあ、やめてみて。その、苛めてって顔」
「……そんな顔してない………! 」
興奮が一目で分かる胸の状態に、満足そうに目を細めるのも「攻める」一環だ。
「してるよ。僕を煽って煽って、頭おかしくしようって顔。……無自覚なら、余計に意地悪したくなるな。……悪いこ」
――って、言われたいんだよね……?
否定して。
精一杯、自分の身体に命令したのに、聞き分けのないわたしは、震えるのを我慢できない。
「可愛い」
それほど豊満じゃなくても、締め付けがなくなれば、ビクッとした拍子に揺れてしまう。
それを可愛いと褒められるのは、あまりに屈辱的な満足感だ。
「また睨むの。懲りないね」
「……っ、ん」
抵抗する素振りを見せながら、隙間が空いている唇を難なく割って、舌が入り込む。
「それとも、わざとやってる? せっかく教えてあげたのに。睨まれても怖くないし、潤んだ目で見上げられたら欲しがられてるって解釈しちゃうって」
「そ、そんな忠告された覚えは……」
ない、けど。
「だって、あの時はそんな目じゃなかったし」
逃げようとしたのがいけなかったのかな。
しっかりと腰を抱かれて、優しく頬を包まれて。
それには抵抗しなかったのに、一番逃げ場のないはずの舌だけ、聞き分けがなかったから。
「……本当によかったな。誰も君に手を出さなくて」
「そ、そんな気にならなかったんだと思う」
やや話が逸れて、ほっとした瞬間にゾクリとする。
「それも謎だけど。でも、一度でも出してたら……、この顔見てたんだもんね。普段のちょっと内気な雰囲気とか完全にどっか行っちゃってるのに、それでも抵抗しようとして……でも」
――やっぱり、期待してるって目。
「ね、おいで」
先にベッドに座った泉くんこそ、悪い顔してる。
さっきみたいに引っ張ってくれたらいいのに、私が自分の足で、自分の意思で彼のところに歩いて堕ちていくのを楽しむとか。
「そう。いいこだね」
分かっていても、心の中で文句言ってみても。
足は、わざとふらふら彼のもとへと向かうんだ。
本当なら、素直に、もっといいこでいるなら――仔犬が大好きなご主人様のところに短い足で走ってくみたいに、少しの距離を一生懸命詰めてた。
こんなふうに、まるで催眠状態なのを装うみたいにゆっくりと側に寄ったのは、まだ私の中に理性と羞恥心が残っているから。
でも。
「いらっしゃい。……僕の、可愛い奥さん」
――結局、彼の両足に挟まれるところまで歩いていけば、私も仔犬同然だ。