stalking voice〜その声に囚われました~




クスッと息が降ってくるのに少しイラッとするのに、髪を撫でられるのが心地よくて、止めるどころかされるがままで。
そうこうしてるうちに、拗ねたことなんか忘れてしまう。それどころか。


「……あ……」


動きが止まると、急に寂しくなる。


「うん……? 」


そこで、何も言ってくれないのは狡い。
いっそ、さっきみたいに言ってくれたらいいのに。

――ものすごく、もの欲しそうな顔してるって。


「狡いって思ってるでしょう。でも、僕に言わせたら、君の方がよっぽど狡いよ」


ほら。
私の考えてることなんて、全部分かっちゃうのに。
気づいてるのに、お預けって無言で示される方が意地悪で狡い。


「言ったよね。そんなに僕を煽って、どうさせたいの」


煽ってるんじゃない。
ただ、こんなに近くで放置しないでほしい。


「……止めてほしくない……」


中途半端に熱を上げたまま、考える暇と余裕を与えないで。


「……初めての時もそうだったね。怖い? 」

「……うん」


怖い。
泉くんの熱が冷めてしまうのが。
こんなに愛されてるのに、だからこそ不安になる。


「なら、ずっとそうやって煽ってたらいいよ。難しくない、ね。今のまま……」


おかしくなりきれない私の耳に、唇が近づく。
ギリギリのところを彷徨ってるのをもう少し見てたいのに、仕方ないな――そう聞こえたのは、きっと気のせいか自意識過剰。


「上手」


まだ、何もしてない。
どうしてそこで褒められるのか、そもそもそれは本当に褒められてるのかも分からない――考えられない。


「……ん……」


なのに、私は嬉しくて嬉しくて。
まだ微妙に残った、けれど、くしゃくしゃになって服の形はとっくに留めてないものを、ゆっくりゆっくりと落とされながら、恍惚として彼を喜ばせている。


「……あーあ」


いつの間に、ベッドに背中を預けたんだっけ。
押し倒すという表現が使えないほど、いくら意地悪されて攻められても、優しく横たえられて。


「知ってる? 堕ちたのも壊れたのも、……《《%size:11px|んだ》》のも、君じゃなく僕だってこと」


よく聞こえない。
何だか分からないけど、もう「意地悪しないで」と懇願する段階はとっくに過ぎてた。
触れてもらえず、ただ待っているよりも、意地悪された方がましだと思えるくらい。
そう、きっと――……。


「……聞こえないの。好きだって言ったのにね」


――壊れかけって、きっと一番辛い。

手荒なことなんて、本当になくて。
寧ろ、今まで教えられたとおりにしようとする私に、彼は本当に甘いと思う。
ひとつ、復習するだけで、ご褒美とばかりに幾重にも返ってくるから。


「あゆなちゃん。……あゆな」


いよいよ反応しなくなってきたことに、それでも止めずに触れながら、困ったなというように笑う。
呼び捨てにされてどうにか、すぐ上にいる目の焦点が合った。


「不安になること、何もないから。その時は、ちゃんと言える……? 」


(……その、とき)


思考能力なんてなくなったと思ってたのに、言われた意味を理解して、かあっと熱くなる。
でも、嫌がったり逃げたりするどころか。


「……っ、こら。まだだめ」


辛そうに息を飲んだのは彼の方で。
そんなこと言われても、私の身体は――……。


「約束ね。僕は、君を裏切ったりしないから。安心して……」


こくんと頷いたのは、確かに私の意思だ。
怖くないと言ったら嘘になるけど。


(大丈夫……信じられる)


「愛してる」


力を抜いて任せたはずが、その一言で、また。


「もう。……可愛い」


「その時」を急かすような反応に、過去最大級に愛しそうに見つめられ――私は、待った。




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