stalking voice〜その声に囚われました~





・・・




「大丈夫……? 」


申し訳なさそうな声に、ちょっと笑ってしまいそうになる。


「……あんまり」


だから、そう素直に言ってみると、後ろから肩に口づけられ――からかうなと甘く噛まれた気がする。


「ごめん。こんなところで……って、本当にあの時みたいだな。堪え性がないね。だって、君、エロいんだもん」


変な自己完結しないでほしい。それに。


(……どっちが……)


色気だだ漏れというより、全開なのは彼の方だ。
もともと好きなのに、それでどう拒めって言うんだろ。

散々弱点を突きまくりながら囁く声は、やっぱり逃してはくれなかった。
あまりに脳が快楽を受け入れすぎると、身体は無意識に抵抗しようとするんだと、彼とこうなってから初めて知った。
それはそれで、ますます彼のSっ気を――他にどう言っていいのか分からないから、かなり可愛い表現にすると、そう――くすぐるらしく、寧ろ懇願できなくなる状態まで攻められる。


「何してるの」


絶対もう無理だと、身体から鳴るアラーム。
腰が引けた理由を探して、手が脱ぎっぱなしの服を捕まえた。


「襲わないから、もう少しだけ。だめ……? 」


あれだけ強引に――じゃないけど、全部意のまま、意地悪したのに、急に甘えてくるの姑息すぎませんか。


「あんまり籠もってたら、様子見に来られちゃうよ……っ、や」

「来ないよ。だって、何してるかバレバレだもん」


(うっ……)


熱い唇が背中にしっとりと落ちた。
可愛い感じはどこへやら、平然と言ってのけると、後ろから簡単にウエストを抱かれてしまう。


「そ、それこそまずいんじゃ……っ」

「どうして。奥さんとこうしてちゃだめ……? それとも、やっぱり嫌……? 」

「そ、そうじゃないけど、そういうことじゃないと思……う」


分かってる。
簡単に捕まえられてしまうのは、私がブランケットに包まれたまま、ベッドから足を下ろさないからだって。


「そうかな。うちは喜びそうだけど。癪だけど、親の思いどおりだからね。それに、今更断るのもう遅い……よね。だって」


珍しく、耳元で喋るよりも触れてくる方が先で。
何でって、何がって――下腹部に手を置くの――……。


「……い、言わなくていい……!! 」

「え? 何を。……何て言われると思って、そんなに照れてるの」


意地悪。
意地悪、意地悪。


「君はもう。何度忠告しても、誘ってくれるんだから」


声を上げて笑われてムッとするのも、もちろん彼の思うつぼだ。
それでも不機嫌を表さないではいられない私に、ぽんぽんと頭を撫でた。


「仕方ないから、仕舞っておこうね」


藁をも掴む感じで握ってた彼の服を受け取ると、そっと私の肩に掛けてくれた。
初めてみたいな、フォーマルなシャツじゃなくて。
好きな人の普段着に包まれてると思うと、それも同じくらい――ううん、もっと嬉しくなる。


「この後、空いてる? 動けそう? 」

「だ、大丈夫」


後ろから抱きすくめられるのも、より声が聞けて好きだ。
なのに、ちょっと寂しくなって、つい振り向いてしまうのも。


「買い物しようか。これは、断らないで」


断るわけないのに、わざわざそう言ったのは。
薬指に絡んだ彼の指が、少し震えたのは。


「勘違いのわけないでしょう。……ね、お願い」


自意識過剰だって、違った時のダメージを軽くする為の保険がすぐに打ち消された。


――僕に、ちゃんとプロポーズさせて。





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