stalking voice〜その声に囚われました~
聞こえたよ。
本当は、しっかり。
だって、耳に唇が当たるくらい近くで囁かれたの。
『いらっしゃい、僕の奥さん』
それは、前に言われたのを覚えてる。
だから、ほんの少し、耐性があったんだよね?
――でも。
『捕まえた』
(……それはただの甘い台詞 いつものこと)
『……やっと……』
(……きこえてない)
疑問点なんてない。疑念も不安も、何も浮かんでない。
ましてや、恐怖なんて――……。
『ね、捕まえちゃった。……たくさん、愛されてね』
まともな思考を放棄した脳が、それは恐怖ではなく性的興奮だと錯覚させ、甘く幸せなものだと植えつけては塗り替える。
(……そう……)
「……あ、い……」
キスが長い。
いつまで経っても慣れない私の呼吸ぎりぎり、逃げようと一瞬でも正常に戻ろうものなら、囁くを繰り返して。
――追われてる。声に。
意思とは関係なく反射的に反る身体は、逃げるにはあまりに弱くすぎて、ああ、捕まってしまう。
「うん。僕も愛してる。大丈夫……ね」
――ほら。つかまっちゃった。