stalking voice〜その声に囚われました~
甘やかされるのに、慣れてしまっていのかな――幾夜、何度、どんなふうに愛されても、落ちてくるキスが優しいほど、そう思う。
「ん……っ、る、い……」
上は下まで降りて。
下はたくし上げられ。
結果、せっかくのドレスは残骸にもなりきれず、私の腰で止まり、引っ掛かってる。
余程このドレスに恨みでもあるんだろうか。
ううん、もしかしたら。
「狡い? 僕が? ……どうして」
(わたしに……? )
これも一種の拘束だと。
シーツ、ドレス、やんわり、でもしっかりと覆い被さった彼のシャツ。
どれも真っ白で柔らかいから分かりにくいけど、まるでピンで留められたみたいに動けそうで動けない。
「…………いつも、先に脱がされる……」
もがいて、声を上げて。
じわじわと、自ら抵抗力を消耗するのを眺められてるみたい――……。
「早く見たいからね」
そんなことを考えて、つい彼の袖を見つめていたのを見つけられて、そう言い繕った。
「……私だって、先に見たい」
「積極的なの、珍しいね。でも……それは聞けないかな。だって、君を脱がせないと進まない、でしょう」
首筋も胸元も、もちろん耳も。
もともと晒されている部分だって、過剰に攻め立てるくせに。
「不満そうな顔、可愛い。どうしてあげようかな……って、最初から決まってるんだけどね」
これまで、私の反応や行動で、ここまで煽られて興奮した人がいただろうか。
ううん、そんな人絶対他にいないって分かってるから、喜びを感じてしまうの。
「……っ」
限界で限界で、その地点をとっくに過ぎて。
本当の本当に無理なところでやっと、それを伝える為にオーバーに息を呑む。
「もう無理? でも、やめてあげない」
そんなアピール、無駄だよって笑われて。
「もっと、君が自分から、ここから出たくなくなるくらい……僕が閉じ込めるんじゃなくて、君が行かないでって言ってくれるくらい、気持ちよくなってもらわないと」
もうなってる。
十分すぎるくらい、ここにいるのが心地よくて、彼のことが大好きで離れたくない。
そう、なってるのに――……。
「……っ、てる……っ」
「聞こえなーい。……じゃなくて、聞こえてるけど、だめ。その代わり、何度イッたっていいよ。我慢してるの可愛いけど……ほら、また煽ってる。自覚して? 」
――可愛い顔歪めて、必死でまともでいようとされると、ぐずぐずに崩したくなっちゃうんだよ。
「ビクビクしちゃって。怖かった……? ちょっと、かな。でも、こういうの好きだよね」
違う、ちがう。
嫌嫌と首を振るのだって、彼にはスパイスだともういいかげん学んだらいいのに。
それとも、彼の言うとおり。
(こういうの、すき……? )
「ん……? 気づいてたよ。気づかないわけ、ないでしょう。君の、そういうところ」
耳元で痴態を教えないで。
自分すら知らなかったことを好きな人から暴かれると、まだ残っていた羞恥に泣いてしまう。
「ごめん。変じゃないよ。すごく可愛い。……それでいいの。僕しか見ないんだから、ね。そのまま……」
涙をそっと拭いて、意地悪なことを言うのをやめた口が、キスをしながら「それでいいんだよ。何も考えないで」と呪文を唱える。
言葉も、手も、唇もまた優しくなったのに、そこだけは何度達しても許してもらえない。
ようやく終わった時、私の意識はどれくらい彼の腕の中にいられたんだろう。
「愛してる」って言われたことが記憶にあることにほっとして、やっぱり喜んでしまう。
(それって、ちょっとおかしい。それくらい、もうこんなに好き)
「いいこ」
何を褒められたのかもよく分からず、もう身体の怠さすらぼやけてる。
――ただ感じるのは、下腹部のそれだけ。