stalking voice〜その声に囚われました~
・・・
それから、何度話しただろう。
しょっちゅう電話するのも気が引けるのと恥ずかしくて、何となく数日置いてたのが懐かしくなるくらい。
今ではすぐメッセージを送ってしまうし、そうなると次の約束をして、結局毎夜のように電話してしまう。
『会う約束してて? それは酷いな』
「会う」にも「約束」にも反応して、ドキッとした。
「ん……」
『酷いなんてもんじゃないよ。そんな最低なことある? 彼女が来るって分かってて、他を呼ぶなんて。しかも、鍵まで渡す関係なのに』
泉……くんが、電話の向こうで憤慨してくれる。
曖昧で、小さな声になったのを誤解したのか、少しトーンダウンした。
『ごめん。君が落ち込んでるのに、勝手に僕がヒートアップして。……まだ、辛いんだ。当然だよ』
「あ……ううん。もう、いいの」
『いいって……どうして。いや、もしそんな男のところに戻るって言われたら、絶対止めるけど』
嬉しい、と思った。
他人なのに、顔も知らないのに。
酷いって共感してくれて、しかもこんなに怒ってくれるなんて。
「だって……泉くんの言うとおり。鍵渡しといて、他の誰かと……なんて、普通ないよ。すっかり忘れてたにしても、わざとだったとしても……どっちにしても、また会ってまで戻りたいとも思わないし。むこうも、思ってないだろうし」
それだけじゃない。
寧ろ、こっちが大きな理由。
「それに、そんなことがなったら、その……」
マッチングアプリなんて登録してないし。
――泉くんとも、話すことはなかった。
『それは……そう思うと、僕は感謝だけどね。って、それも酷いよな。……ほらね、僕は優しくないよ』
そんなことない。
気の合う誰かと話すって、こんなに癒されるんだ――そう思ったのは、本当に短い期間だけだ。
『でも、少しでも癒されたなら本望、かな』
「……癒されました」
「泉くんと」話すことに癒されて、今はもうドキドキしてる。
あれから、数人からメッセージ貰ったけど、断ってしまった。
別に、一人としかやり取りしちゃいけない決まりなんてないけど。
やり取りしたからって、浮気にはならないけど。
でも、他の人とお話しする気にもならない――じゃなくて。
『よかった。でも、それもお互い様なんだけどね。……僕も癒されてる』
――私が、彼を選んでるんだ。
「……なら、嬉しいけど」
『あ、また疑ってる。前にも言ったけど、楽しくなかったら、こんなに何度も話してないよ。引かれたらどうしようってくらい、君と話してるのに』
「引かないよ。本当に嬉しい」
疑ってるんじゃなくて、自信がないんだ。
特に面白い話もできないし、今でも何て言っていいか分からなくて口ごもったりもする。
そんな私と話して、楽しいとか癒されるとか、どうして思ってくれるんだろって。