stalking voice〜その声に囚われました~
でもね、既に変わったところもある。
『黙っちゃうの。残念』
「も……もう。そんな意地悪言うなんて、泉くんこそ、私に慣れてきたんじゃない? 」
夜、こんなふうに楽しく過ごしたくて。
一分一秒でも早く、夜になってほしくて。
『慣れはしないよ。今だって、さすがに嫌がられたかなって、実はちょっと緊張してた』
「嘘だ」
『意地悪だな。嘘じゃないよ。普通に緊張はするし、どんな反応が帰ってくるのか楽しみなのもあるし。でも、それを予測するには情報が足りなすぎるから。……もっと、知りたいって思ってる』
夜がきて、予定が合わなくてキャンセルするなんて絶対にしたくなくて、以前なら嫌々笑顔で引き受けてた残業も断ることができる。
『もっと君を知りたいなんて、嘘っぽく強請ったら引く……? 』
――それくらい、この声に早く会いたい。
「……嘘なの? 」
『だったら、もっと格好いい台詞が他にありそう。でも、本心だから、そんな陳腐でキモい言葉しか出てこなくて嫌になってる』
そう思ってる私は、もっと陳腐で気持ち悪いと思う。けど。
「引いてないし、キモいとか思ってないよ」
『……本当に? 』
「本当に決まって……え……? 」
クスッと笑われただけ。
なのに、電話だからか、吐息の方を大きく拾ってしまって、耳の中から熱をもってじわじわ外側まで赤くなっていくのが分かる。
『ありがと。そう言ってもらえると、ちょっとだけお願いしやくすなる』
(やだな……私って)
こんなに声フェチだったっけ。
泉くんと話すのはもちろん楽しいのに、話の内容を理解するのが遅れるほど、声に聞き入ってしまう。
『知ってる? 今度、登録した地域ごとに、利用者の集まるパーティーがあるって』
「え? 」
知らない。
そういえば、何か通知が来てたような気もするけど。
アプリを起動したら、すぐ彼からのメッセージを読んだり、読んだら返信したりしてしまうから。
『このアプリってさ、顔出し非推奨じゃない? サービス外で、個人的に会う為の情報の開示も』
「非推奨なの? 」
顔出し「しなくてもいい」かと思ってた。
『……あゆなちゃんさ。前々から思ってたんだけど、登録する前にちゃんと規約とか見た? このサービス、理解してないでょう』
「……あんまり」
規約なんてスクロールすれば、利用申し込みのところが押せるし。
サービス自体の理解なんて、正直あんまり必要なかった――彼一人とお話しするには。
『はぁ……って、同じく登録しといて、君を口説いてる男が言うことじゃないけど。そんなだと、本当に危ないよ』
「すみませ……っん……?」
(……今、何か言った? )
さらっと、すごいこと言われたような。
『そ。非推奨なんだよ? 説明するから、聞いて? その感じだと、君の知らないことばかりだからさ』
少し遅すぎて、もう話が繋がらなくなってしまった「そう」に、聞き返すこともできない。
知らないことばかり――その言葉に、私は何を期待してるんだろ。
思わず、ゴクンと喉が鳴るくらいの。