stalking voice〜その声に囚われました~
「ち、違う! よ……。嬉しいけど、だって」
(こっちこそ、会ってみて嫌になって……連絡来なくなったら)
立ち直れないかもしれない――そう思って、今更だけど、認めざるを得なかった。
『……必要ない心配してる? そんなこと考えなくていいよ。僕が君に断るなんて、絶対ないから』
――別れたくないって、初めての経験。
『だから、考えてみてくれない? 直接は言いにくいだろうから……通知見てごらん。あと、Q&Aくらい確認しとくように』
息を飲んだのを、きっと誤解した。
違うよって言いたいのに、言えない。
そうじゃなくて、「別れる」なんて、まだ始まってもない関係なのに。
何かをどうやってか、必死に繋ぎ留めようとする自分の気持ちに気づいた――そんなこと、言っていいのか分からなくて。
わざと、お説教口調になった優しさが切ない。
「うん……あ……のっ……! 」
でも、やっぱり嫌だ。
会って台無しにしちゃって、終わるのと同じくらい。
『あゆなちゃん? 』
引き留めたくせに、何も言えなくて。
それでも結構待っててくれた。
「……怖いの……。そんなふうに言ってくれて嬉しいけど、やっぱり嫌な思いさせたらどうしようって。もう、こうやって話せなくなるかもって思ったら、怖い」
言ってて恥ずかしい。
気持ちを伝えることがと言うより、こんなぶりっ子みたいな台詞が、マッチングアプリなんて利用しておいて出てくる自分が情けない。
『それは、僕だってそうだよ。でも、このままただ電話するだけにしておきたくないって気持ちの方が強くなった。そうしてる間に、他の男が動いたら……って焦りの方が、辛くなってきたんだ』
それこそ、そんな心配しなくていいのに。
でも、確かに。そう言われると、無意識に避けてただけなんだって思い知る。
ずっと、他愛もない話を電話でするだけでいいの?
(……何てない話、楽しい)
彼の興味がなくなって、何も行動しないまま終わっちゃうかもしれないんだよ?
(そんなの、仕方ない……)
このまま、本当にこのまま。
――声だけでいいの?
『後悔したくないんだ。会ってみて、君の気持ちが変わったとしても……何もしないまま、始まらないまま……終わらせたくない』
いつか。もしかしたら、すぐそこまで迫ってるかもしれない消滅まで、何もしないで手離すの?
『……好きだなって思うって、なかなかないから。だから、ごめん。逃げていいなんて言ったくせに、ちょっと……結構押しちゃうかもしれない』
――初めて、でしょう。
(……好き……)
誰かをそう思ったの。
別にそこまで好きじゃなくても付き合えたのに、初めて心が揺れた人から逃げるの?
(……だって、それは)
――「好きだから」って、矛盾すぎる理由で。