聖なる夜に新しい恋を
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「チキン、おいしかった?」
「すっごくおいしかった!こんなおいしいチキンわけてもらえるなんて羨ましい〜」
「良かった、お口に合って。食品も扱う仕事だから、立地的にも飲食店のメニュー撮影とか依頼入るんだ。そのツテでね」
彼女のお褒めの言葉に安堵した。初めて出会ったあの夜は警戒されていたからか感じなかったことだが、どうやら彼女は酒が入ると少々口数が増えるらしい。いつもの彼女ならここまで話さないのにという心の内まで、ぽろりと溢すことがある。羨まれたのも、多分それでだろう。
食事を終え、一旦ローテーブルを片付けてデザートをいただく。彼女のチーズケーキと俺のショートケーキ。ふたつでワンコインちょっとの元値がさらに値引きされていたそれらは、一応ヒイラギのシールが貼られ、ある程度のクリスマス感を漂わせていた。が、通年販売のケーキと中身は何ら変わり無いだろう。
「……こんな味気ないケーキでごめん。ケーキも準備しとけば良かった」
「そうかな?そりゃ、ケーキ屋さんには敵わないけど、これだって企業努力の塊だもん、おいしいよ。……三田くん、いちご最後に取っとくタイプなんだね。ふふ、かわいい」
「そう?結構最後派の人多いでしょ」
「確かに!でも三田くんは、欲しいものは絶対手に入れたい〜とか、何事も最初から全力〜ってイメージだったから」
「……それは当たってる、かな。食事は別だけど」
言い当てられて、心臓が変な跳ね方をした。心当たりは大いにあるし、何ならそうしようと思いながら生きてきたことだった。
「……こんな話、好きな子にするもんじゃ無いと思うけど、」
フォークを置いて、ゆっくりと話し始めた。それは、親にも話したことが無いことだった。
──ガキの頃、淡い片思いをしていたこと。ガキなりにカッコよくなれるまで、告白せず想いを温めていたこと。その子に想いを伝える前に、交通事故でもう会うことすら出来なくなったこと──。
「──食事なら最後に取っておいても大丈夫だし、食べられなくてもまた買ったり作ったりすれば良い。……でも、人生はそうはいかない。今は今で、それは一度きりかもしれないし、次のチャンスなんてもう一生来ないかもしれない。だから、後悔する前に全部チャレンジしてみようって、そんな風に考えるようになっちゃってさ」
「…………そっか、大変だったんだね……」
「……何か、しんみりさせちゃってごめん。俺、飲み物入れてくるよ。何飲む?」
彼女もいつの間にか食べる手を止めて聞いてくれていた。このままでは駄目だと、理由を付けて離脱する。こんな空気にしたのは自分なのに。